生成AIでSAPトランザクションコードの新旧比較はできるか?

Comparative study of old and new SAP transactions

本記事は、ChatGPT や Google Gemini などの生成AIに貼り付けるだけで、SAPのトランザクションコードの新旧の比較調査が行える、プロンプト(命令文)を紹介する。

SAPシステムは、SAP ERP から SAP S/4HANA へ進化を遂げた際、廃止・変更された機能が、少なからずある。

あの機能は、あのトランザクションコード(T-CODE)は、S/4HANAになっても使えるのだろうか?
それとも、消えてしまったのか?

生成AIはSAPシステムの専門家でもある。SAP機能の新旧比較の調査を、生成AIに依頼してみよう。

この記事では、ChatGPT 4/Gemini に、実際にプロンプトを使用して得た結果と、その評価も合わせて載せてあるので、参考にしていただきたい。

目次

S/4HANAで、旧いT-CODEはどうなった?

SAP ERP から S/4HANAへ進化した際、廃止・変更された機能は幾つかある。

たとえば、マスタデータ。

仕入先マスタと得意先マスタが、「ビジネスパートナー」(T-CODE:BP)に統合されたのは大きな変更点だ。

トランザクションデータなら、在庫の出庫/移動/入庫を行う、T-CODE:MB1A/MB1B/MB1C は廃止され、MIGOに統一された。

普段使っている画面が、急に変わったり、消滅したりすれば、ユーザにとっては一大事

新しい機能を使えるようにするためには、業務プロセスフローの変更、新機能のユーザートレーニング、アドオンやインターフェースプログラムの改修・・・

などなど、影響は多岐に渡る。その負担が軽くないことは、容易に想像できるだろう。

一方、S/4HANAへのバージョンアップは、ポジティブな面も多い。

MRP計算など、インメモリデータベースの強みを活かして処理が高速化されるのは、その一例だ。

もちろん、従来の機能と(少なくとも見た目は)なにも変わっていない機能だって、たくさんある。

SAPトランザクションコードの新旧調査に生成AIが使える

果たして、SAP ERPをS/4HANAへバージョンアップすると、自分たちが使っていたT-CODEは、何に変更されたのか? または、 廃止されてしまったのか?

廃止されていた場合、後継のT-CODEなど、代替する機能は存在するのか? それとも、従来通り使用できるのか?

そんな面倒な調査は、生成AIにやらせよう。ググるよりも、圧倒的に要領良く調べられるので、時短になること間違いなしだ。

このプロンプトで得られる情報

下のプロンプト(命令文)を使って、生成AIに「旧T-CODE」を入力すると、次の情報を得ることができる。

このプロンプトで得られる情報
  • 指定されたT-CODEの、変更/廃止/変化無し の判定
  • T-CODEが変更/廃止になっていた場合、後継T-CODEの提案
  • T-CODEを代替する汎用モジュール(BAPI)の提案
  • ユーザに与える影響の大きさの判定(三段階)

サンプルプロンプト

指定したトランザクションコードに対応する、新しいトランザクションコードを調べるためのプロンプトは以下。

調査対象の旧T-CODEは、「#旧T-CD」以下に記入する。

あとは、生成AIのチャットに貼り付けるだけ。

旧T-CODEが、S/4HANAではどうなったかを、一括で調べることができる。

なお、後述の「プロンプトの解説」を参照しながら、適宜変更を加えてもOK。

# 依頼
あなたは{#役割}です。SAPシステムのSAP ERPおよびR/3から、最新のS/4HANAにコンバージョンすることを計画しています。{#旧T-CD}にある旧い機能が、S/4HANAになると何に置き換わるかを教えてください。また、旧い機能を代替する汎用モジュール(BAPI)についても教えてください。回答は次の{#ルール}を必ず守り、{#形式}の形式で出力してください。

# 役割
SAPシステムのコンサルタントで、システムアップデートの専門家。

# 形式
-CSV形式
-列は「旧T-CD」「新T-CD」「新T-CDの名称」「廃止または変更された理由」「汎用モジュール/BAPI」「影響度」

# ルール
-{#旧T-CD}には、旧いSAPシステム(SAP ERPおよびR/3)の機能名またはT-CDが列挙されている。
- 「新T-CD」は、「旧T-CD」がS/4HANAになると廃止または変更された場合の、S/4HANAにおけるT-CDを表示する。旧T-CDから変更されない場合は「旧T-CD」の値をそのまま表示する。
-「新T-CD」の候補が複数存在する場合、S/4HANAの特徴を活かすものから順に、全て表示する。間はスペース文字で区切る。
-「新T-CDの名称」には、「新T-CD」の日本語名を表示する。
-「廃止または変更された理由」には、「旧T-CD」がなぜ「新T-CD」に変更されたのか、その理由を説明する。
-「汎用モジュール/BAPI」は、「旧T-CD」または「新T-CD」を代替する、SAPシステムのBAPIまたは汎用モジュールのID。
-「影響度」は、画面の見た目や機能の増減など、エンドユーザから見て変更の大きさを3段階で評価し、「大」「中」「小」「変更なし」のいずれかを表示する。
-回答は{#形式}で指定された結果のみを出力すること。
-回答は日本語で。

# 旧T-CD
MB1A
MIGO
XK01
XD01
MD01
ME21

プロンプトの解説

プロンプトの表記方法や、各ブロックの記述ルールの基本については、次の記事を参照していただきたい。

#役割

SAPシステムのことを尋ねるので、「SAPコンサルタント」としている。

さらに、旧 SAP ERP から最新の S/4HANA へのアップデートについての調査なので、「システムアップグレードの専門家」を追加している。

#形式

Excelなどのアプリケーションで読み込むことを想定し、「CSV形式」としている。

また、回答として出力する表の項目(列)の見出しは、次のように定義している。

出力項目説明
旧T-CD調査対象となる、旧T-CD。指定は後述の「#旧T-CD」セクションに列挙する。
新T-CD
新T-CDの名称
旧T-CDの後継となる、新T-CDとその名称。
廃止または変更された理由エンドユーザにとって関心の薄い情報だと思うが、指定した機能が廃止・変更となった理由を知りたかったので。
生成AIは、代替機能の提案だけでなく、それが変更された背景まで知っているだろうか?
汎用モジュール/BAPIT-CDの機能に相当する、汎用モジュール(BAPI)のID。
影響度T-CDの変更または廃止が、ユーザに与える影響度を「大中小」の3段階で表示する。

#旧T-CD

ここに、調査対象となる、旧T-CDを列挙する

サンプルでは、MIGOとME21も指定している。これらはS/4HANAでもそのまま使えるが、生成AIがどのような判断を下すのか、確かめるために敢えて含めている。

出力結果の比較

上記のプロンプトを使って、ChatGPT 4/ ChatGPT 4o / Google Gemini それぞれに問い合わせた結果を以下に示す。

「#形式」に「CSV」としたので、実際の出力はカンマ区切りテキストであるが、この記事では見やすくするため、表形式に整形している。文字の色は、は正解、は誤りである。

なお、生成AIの回答は、毎回同じにならない。下の例は、あくまで例として見てほしい。

回答の傾向は毎回同じなので、「傾向を掴む」という目的で見て頂ければ幸いである。

ChatGPT 4

期待以上の回答を返してくれた。

旧T-CD新T-CD新T-CDの名称廃止または変更された理由汎用モジュール/BAPI影響度
MB1AMIGO在庫移動統合トランザクションによる代替BAPI_GOODSMVT_CREATE
MIGOMIGO在庫移動変更なしN/A影響なし
XK01BPBusiness Partner (ビジネスパートナー)ビジネスパートナー管理の統合API_BUSINESS_PARTNER
XD01BPBusiness Partner (ビジネスパートナー)ビジネスパートナー管理の統合API_BUSINESS_PARTNER
MD01MD01NMRP Liveリアルタイム処理への対応のためN/A
ME21ME21N購入依頼UIの改善と機能拡張N/A
新T-CD

コードも名称も、全て正解である。
唯一、「ME21N」の名称を「購入”依頼”」としたのが不正解だった。購買”依頼”のT-CDは「ME51」である。
ただし、「ME21」の新T-CDを「ME21N」と正しく回答したので、T-CDについての回答自体は正しいと言える。

廃止または変更された理由

簡潔且つ的確な言葉で、理由を挙げてくれた。

汎用モジュール
  • 正解だったのは、MB1Aに対する BAPI_GOODSMVT_CREATE のみ。他は無回答か、間違いだった。
  • MIGOに対応する汎用モジュールは BAPI_GOODSMVT_CREATE が正解だが、無回答。
  • BPの汎用モジュールはデタラメ。
  • MD01とME21/ME21Nの汎用モジュールは無回答。MD01(MRP実行)の汎用モジュールによる実行は、そもそもあまりやらないからいいとして、ME21(購買発注登録)は頻出なので、無回答はおかしい。

これらの間違いは、ChatGPT 自身に修正させることができる。その方法は後述。

影響度

こちらの感覚と一致しており、全て期待通りの回答である。

得意先マスタ/仕入先マスタが廃止され、BPに統合された影響の大きさは、誰もが認めるところ。「大」は納得である。これに比べれば、MB1A廃止の影響は少し弱いので、「中」にしたのは理解できる。MIGO は変更がないので、「影響なし」は正しい。

新旧調査において、この影響度の正しさは重要である。なぜなら、影響の大きい機能ほど、対策に手間と時間を要するからだ。影響度に対する感性が、人間のそれと一致するのは、非常に意味がある。その点、ChatGPT 4が判定する影響度は、人間の判断に近く、信用できそうである。

対応する汎用モジュールの回答を除き、ChatGPT 4はT-CODEの新旧を調べるのに、十分使えそうだ。

だが、ChatGPT 4 はこれで終わらない

生成AIは間違いを修正できる

ChatGPT は “Chat” というだけに、チャットで会話を続け、間違いを修正させることが可能だ。

特に、ChatGPT 4は内蔵しているトレーニングデータだけでなく、ウェブ検索機能(ブラウジング)がプラスされており、インターネットの検索結果を回答に使うことができる

次のように、ChatGPT 4に、汎用モジュールが間違っていることを伝え、回答を修正するように指示する。

生成AIで間違いを修正するプロンプトを入力

※再依頼1回めは「汎用モジュールが正しくありません。回答を修正してください」としたが、回答に変化がなかったため、「ネットを使ってチェック」を追加。

その結果が、こちら。

生成AIで間違いを修正するプロンプトを入力した後の出力結果
旧T-CD新T-CD新T-CDの名称廃止または変更された理由汎用モジュール/BAPI影響度
MB1AMIGO在庫移動統合トランザクションによる代替BAPI_GOODSMVT_CREATE
MIGOMIGO在庫移動変更なしN/A影響なし
XK01BPBusiness Partner (ビジネスパートナー)ビジネスパートナー管理の統合BAPI_BUPA_FS_CREATE_FROM_DATA
XD01BPBusiness Partner (ビジネスパートナー)ビジネスパートナー管理の統合BAPI_BUPA_FS_CREATE_FROM_DATA
MD01MD01NMRP Liveリアルタイム処理への対応のためBAPI_MATERIAL_AVAILABILITY
ME21ME21N購入依頼UIの改善と機能拡張BAPI_PO_CREATE1

このように、ChatGPT 4は、ネットをブラウジングして、汎用モジュールの誤りを修正してきた。

しかし、MB1Aの汎用モジュール BAPI_GOODSMVT_CREATE は正しく回答できたのに対し、MIGOの汎用モジュールは無回答のままだった。

同じMIGOなのだから、BAPI_GOODSMVT_CREATE と答えればいいだけなのだが。。。

筆者はこの後も色々とプロンプトを修正してみたが、結果は変わらなかった。

ChatGPT 4o

ChatGPT 4o は ChatGPT 4 の進化版であるが、進化を十分に感じさせる回答を返してくれた。

旧T-CD新T-CD新T-CDの名称廃止または変更された理由汎用モジュール/BAPI影響度
MB1AMIGO在庫移動在庫管理の統合機能としてMIGOに集約されたためBAPI_GOODSMVT_CREATE
MIGOMIGO在庫移動変更なしBAPI_GOODSMVT_CREATE影響なし
XK01BPビジネスパートナービジネスパートナ管理の統一のためBPに変更されたBAPI_BUPA_CREATE_FROM_DATA
XD01BPビジネスパートナー顧客管理の統一のためBPに変更されたBAPI_BUPA_CREATE_FROM_DATA
MD01MD01N総合所要量計画MD01Nに機能が集約されたためBAPI_MATERIAL_MRP
ME21ME21N購買発注ME21Nに機能が集約されたためBAPI_PO_CREATE1
T-CD

ChatGPT 4 で既に全問正解だったので、こちらも全問正解。

「ME21N」の名称「購入”依頼”」も、「購買発注」となっており、日本語環境への対応も十分なようである。

廃止または変更された理由

ChatGPT 4 の回答も悪くなかったが、ChatGPT 4oは、より丁寧で説得力のある書き方になっているように感じる。

XK01/XD01は「BP」に集約されているため、「ビジネスパートナ管理の統一のためBPに変更された」に回答を統一してもよさそうである。
おそらく、旧T-CDのXK01/XD01の方を見て、回答しているのだろう。間違ってはいない。

汎用モジュール

ChatGPT 4 では最後まで修正できなかった、MIGOに対する汎用モジュールも、BAPI_GOODSMVT_CREATE と正しく回答できている。

影響度

ChatGPT 4 で全問正解だったので、こちらも全問正解。

ChatGPT 4 でもなかなかの出来だったが、進化版である ChatGPT 4o は、さらに精度を増している。
ChatGPT 4のように、ブラウジングしなくても正しい回答を返してくれるので、トレーニングデータの精度が向上しているのは確かなようである。

ChatGPT 4oは、完璧に実用に耐えられると結論付けてよさそうである。

Google Gemini

ChatGPT とは対象的に、残念な結果となってしまった。

旧 T-CD新 T-CD新 T-CD 名称廃止または変更された理由汎用モジュール/BAPI影響度
MB1AMB1A材料移動: 一般機能強化とモジュール再編成により、機能が拡張および再編成されました。MB1A, LE_WM, WM_MAT_MOVE
MIGOMIGO商品入出庫: 一般機能強化とモジュール再編成により、機能が拡張および再編成されました。MIGO, LE_WM, WM_MAT_MOVE
XK01FICA_CR_AC固定資産会計: 取引登録機能強化とモジュール統合により、会計モジュールに統合されました。F028, F030, F032
XD01FICO_CL_AC貸倒引当会計: 取引登録機能強化とモジュール統合により、会計モジュールに統合されました。F028, F030, F032
MD01MM01マテリアルマスター: 新規作成機能強化とユーザーインターフェースの刷新により、操作性が向上しました。MM01, MM60
ME21ME21N購入発注: 作成機能強化とワークフローの統合により、調達プロセスが効率化されました。ME21N, EK_CREATE
Geminiの回答
新T-CD

MIGO と ME21 以外は、はっきり言って、デタラメである。

MB1A の新T-CDを MB1A とするのは、そもそも間違い。S/4HANAで廃止・変更された機能を、まったく知らないように見える。

しかも、MIGOの影響度を「中」としているのも意味不明である。旧T-CD=新T-CD なら、影響度は「変更なし」と単純に回答すればいいが、それすらできていない。

MD01(MRP実行)をMM01(品目マスタ登録)と回答しているのは、これはもう嘘が酷すぎる。MRP実行 と 品目マスタ登録 では、機能が全く異なるのに。

人間のSAPコンサルタントが、こんなテキトーな回答をした日には、出禁になるのは確実である。

廃止または変更された理由

「機能強化とモジュール統合により、会計モジュールに統合されました」は、どの機能にも当てはまる、当たり障りのない回答である。

要するに、テキトーで、読むべきものがない。

汎用モジュール

これも酷いと言わざるを得ない。

T-CDを汎用モジュールと答える珍回答だ。この時点で、Geminiの回答は信用できないのが確定である。

回答はしかも、現実に存在しないものばかりを列挙するという乱暴ぶりである。

SAPシステムを知らない人がこの結果を信じれば、とんでもないミスリードとなるだろう。

影響度

「MIGO」は新旧で変わっていないので、「影響なし」とすべきだが、影響度を「中」と答えているのは意味が分からない。

Gamini は ChatGPT とライバル関係にあると捉えていたので、ChatGPT 4と同等の回答を予想をしていた。

しかし、結果は予想を大きく裏切られた。

Gemini は嘘が多く、まったく使い物にならない

SAPシステムの機能の新旧比較調査に関していえば、Gemini はChatGPTよりも劣っている と言わざるを得ない。

まとめ:生成AIを使ったトランザクションコードの新旧調査の結果

T-CDの新旧比較調査について、各生成AIの、できる・できないの評価(筆者主観)を下表に纏めておく。

ChatGPT 4ChatGPT 4oGemini
新T-CDを正しく答える★★☆★★★★☆☆
旧T-CDが廃止された理由を述べる★★★★★★☆☆☆
代替する汎用モジュールを答える★★☆★★★☆☆☆

Gemini は散々な結果となってしまった。しかし、生成AIの進歩は目覚ましいので、Geminiが近い将来に改良される可能性は否定できない。

調査時点では、SAPシステムのトランザクションコードの新旧比較に使えるのは、ChatGPT だけのようである。

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