SAP GUI for Windows は、SAPシステムを利用するユーザーにとって欠かせないユーザーインターフェイスである。長い間、32ビット版のみが提供されてきたが、2023年1月、ついに64ビット版がリリースされた。
しかし、なぜ64ビット版の登場がここまで遅れたのか、そしてその導入によって何が変わるのかは、多くのSAPユーザーにとって気になるポイントだ。本記事では、SAP GUI for Windows の64ビット版が登場するまでの背景と、32ビット版との違い、64ビット版のメリットや制限、そして、どのようなユーザーに32ビット版または64ビット版が向いているかなど、詳しく比較・解説する。64ビット版 SAP GUI for Windows の導入を検討しているSAPユーザーに役立つ内容となっているため、ぜひ参考にしてほしい。
Windows 64ビット化の歴史

64ビットが主流になったのは あのバージョン
まずは、64ビットソフトウェアのプラットフォームとなる、デスクトップ向けWindowsの64ビット化の歴史を振り返ってみよう。Windowsの64ビット版が主流となったのは、どのバージョンで、それはいつ頃からだったろうか。
- 初期の64ビットOS
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64ビットアーキテクチャは、1990年代に高性能なサーバー向けのシステムとして登場した。IntelのItaniumプロセッサや、後に登場したAMDのAMD64アーキテクチャがその基盤を築いた。
- Windows XP 64-Bit Edition (2001年)
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デスクトップ向けWindowsの64ビット対応は、2001年にリリースされたWindows XP 64-Bit Editionから始まる。科学技術計算向けであり、一般的なデスクトップ用途では普及しなかった。
- Windows XP Professional x64 Edition (2005年)
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AMD64やIntelのx64アーキテクチャ向けとして登場。デスクトップ市場に64ビットの可能性を広げたが、当時のソフトウェアやデバイスドライバの64ビット対応は極めて限定的だったため、ほとんど普及しなかった。
- Windows Vista(2007年)
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32ビット版と64ビット版が同時にリリースされた初のWindows。64ビット版ではメモリ上限が最大128GBと大幅に拡大。一般ユーザー向けにリリースされたものの、ソフトウェアやドライバの対応が依然として限定的だったため、普及は進まなかった。ユーザーインターフェイスがXPと比べて不評であり、Vistaそのものが普及しなかった。
- Windows 7(2009年)
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ユーザーインターフェイスが改善され、Vistaの不評を払拭。多くの企業やエンドユーザに受け入れられた。この頃、ハードウェア性能の向上やメモリ容量が増加。ソフトウェアやドライバの64ビット化も進み、OSにおける64ビット主流化の流れがこの頃から始まる。
- Windows 8/8.1(2012年・2013年)
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64ビット版ではメモリ上限がさらに拡大(Windows 8 Proで512GB)。この頃、販売されるPCのほぼ全てが64ビット版に対応。しかし、Windows 8/8.1のデスクトップ市場のシェアは低く、64ビット化を後押しする原動力にはならなかった。
- Windows 10(2015年)
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64ビット版のメモリ上限が2TBに拡大(Pro版以上)。32ビット版もリリースされたが、ほとんどのPCに64ビット版がプリインストールされるようになった。それと同期するように、ソフトウェアやドライバも64ビット対応が進む。64ビットが主流となったのはこの頃からである。
- Windows 11(2021年)
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64ビット版のみがリリースされる。完全な64ビット時代に突入。
SAP GUI の64ビット化が遅れた原因? Officeの64ビット版

Excel、Word、PowerPoint、Outlookなど、Microsft Officeを導入し、日々活用している企業は多い。そんなMicrosoft Office 64ビット版の歴史についても紐解いておこう。後述するが、SAP GUI for Windowsに含まれるコントロールの中には、Microsoft Officeから呼び出せるものが存在する。これらのコントロールを利用してソリューションを構築している企業にとって、SAP GUI for WindowsとMicrosoft Officeの連携は無視できない重要な要素だ。
64ビット版Officeの特徴
Microsoftは、2010年に「Microsoft Office 2010」として初めて64ビット版のOfficeをリリースした。ちょうど、Windows 7 がリリースされた時期と重なる。このリリースにより、64ビットOS上で64ビットのOfficeが使える環境が出来上がった。
64ビット版のソフトウェアは、大容量メモリ(4GB以上)を活用できる。この特徴は、特にExcelのような大量データを扱うアプリケーションでのパフォーマンス向上に寄与する。
ところが、リリース後の数年間、Microsoftは64ビット版Officeを積極的にプロモーションすることはなく、32ビット版を推奨し続けたのである。
Microsoftが64ビット版Officeを推さなかった理由
Microsoftは、64ビット版Officeを提供しつつも、初期の数年間は32ビット版の使用を推奨していた。それには、以下のような理由があったと考えられる。
- 互換性の問題
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64ビット版Officeでは、32ビットのActiveXコントロールやアドインを利用できない。多くの企業は、Excelのマクロを活用してカスタムソリューションを構築してきたが、それらの多くは32ビットのコントロールに依存している。後述するSAP GUI for Windowsに含まれる「NWRFCコントロール」もその一つである。この32ビットのコントロールを使ったソリューションは、64ビット版Officeに移行すると動作しなくなってしまう。このような背景から、安易な64ビット版Officeへの移行は企業内で混乱を招く可能性が高く、Microsoftは32ビット版Officeの継続利用を推奨したのである。
- 安定性とテストの成熟度
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リリース当初の64ビット版は、32ビット版ほどの成熟度や十分なテストが行われていなかったため、安定性に不安があったと考えられている。
- 一般的な用途には32ビット版で十分
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一般的な文書作成や表計算といったタスクでは、32ビット版で十分な性能が得られたため、64ビット版の利点を必要とするユーザーが限られていた。
64ビット版Officeがデフォルトになった時期
Microsoftは、2019年の「Office 2019」以降、64ビット版を推奨し、既定インストールとする方針に切り替えた。この方針転換の背景には以下のような要因があった。
- ハードウェア環境の進化
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64ビットのWindows 10 が普及するに連れ、ハードウェアもソフトウェアも64ビットが主流となり、メモリ容量も大幅に増加した。このため、64ビット版の利点を生かせる環境が整った。
- 互換性の向上
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時間の経過とともに、ActiveXコントロールやアドインの64ビット化が進み、互換性の課題が軽減された。
- 大容量メモリの必要性
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ビッグデータや複雑な数式を処理するニーズが増えたため、大容量メモリを活用できる64ビット版の優位性から、64ビット版のニーズも拡大した。
ようやく登場した SAP GUI for Windows の64ビット版

64ビット版はリリース8.00から
SAP GUI for Windows が正式に64ビット対応となったのは、2023年1月27日にリリースされた SAP GUI for Windows 8.00 である。
SAPノート「3075781 – SAP GUI for Windows 8.00 の新機能および変更された機能」によれば、
「真の 64 ビットバージョンの SAP GUI for Windows」
という記述がある。また、同バージョンでは、32ビット版と64ビット版の両方がリリースされている。
以前から64ビット化されていた?
SAP GUI for Windows 8.00は「真の64ビットバージョン」としてリリースされた。ということは、部分的な64ビットバージョンなら、以前から存在していたのだろうか?
実は、リリース8.00の前バージョンであるリリース7.70では、一部のコントールが既に64ビット化されていた。そのコントロールが「NWRFC コントロール」である。
SAPノート「2724656 – SAP GUI NWRFC コントロール: ログオン、テーブル、機能、および BAPI コントロールに対する 64bit のサポート」によれば、NWRFC コントロールには以下のコントールが含まれており、これらの64ビット版は、2021年3月16日にリリースされたリリース7.70に既に搭載されていた。
- Logon Control
- Function Control
- BAPI Control
- Table Factory Control
上記のコントロールは、Microsoft Office のマクロなど外部アプリケーションから利用される。しかし、Microsoft Office の64 ビット版は、64ビットのコントロールしか使えないという制約がある。リリース7.60以前の SAP GUI for Windowsでは、NWRFCコントロールは32ビット版しか提供されておらず、この制約のため、NWRFCコントロールを利用するユーザーは、Microsoft Office を64ビット版にアップデートできないという課題を抱えていた。
この課題を解決するため、リリース 7.70 では、NWRFCコントロールの 64 ビット版 (非ユニコードおよびユニコード) が提供されるようになったのである。また、64 ビット版のNWRFCコントロールは、32 ビット版と並行してインストールできるようになっている。

64ビットのコントールを選択してインストールできる
つまり、SAP GUI for Windows はリリース7.70の時点で、64ビット化を始めていたのである。
なお、リリース8.00の32ビット版にも、64ビット版のNWRFCコントロールは引き続き搭載されており、リリース7.70と同様に、32ビット版のインストール時に選択してインストールできるようになっている。
なぜ64ビット化に時間がかかったのか?
2019年に登場した「Office 2019」以降、世の中のハードウェアとソフトウェアは、すっかり64ビットが主流になったと言える。他方、SAP GUI for Windows の64ビット版が登場したのは4年後の2023年と、かなり出遅れた感がある。なぜ、SAP GUI for Windows の64ビット化は、これほどの歳月を要したのだろうか?
その理由について考察してみたい。
1. 技術的必要性が低かった
- SAPシステムの特性
SAP GUIは、SAPシステムにアクセスするためのクライアントアプリケーションであり、主にトランザクション処理やシステム管理のために使用される。これらの用途はCPUやメモリを大量に消費するものではなく、32ビットアーキテクチャでも十分に対応できた。 - パフォーマンス要件が低い
SAPシステムの処理は、サーバー側で行われることが多く、クライアント側の負荷が少ない。そのため、高性能を求められる64ビット化の必要性は急務ではなかった。
2. 互換性の維持
- レガシーシステムとの互換性
SAPシステムは大規模な企業システムで使用され、多くの企業が長年にわたり32ビット環境を維持してきた。64ビット版を導入することで、既存の拡張機能やマクロとの互換性問題が発生する可能性があり、これを回避するために慎重な移行が必要だった。 - 顧客基盤の多様性
SAPの顧客基盤は多岐にわたり、古いオペレーティングシステムやハードウェア環境を使い続ける企業も多い。これに対応するため、32ビット版を長く維持する必要があった。
3. エコシステムの複雑性
- 周辺ツールとの依存関係
SAP GUIは、他のSAPソフトウェアやサードパーティ製ツールと連携して動作することも多い。サードパーティ製ツールが32ビットであり続ける場合、SAP GUIだけが64ビット化しても連携して動作できない。つまり、エコシステム全体の64ビット化が進むまで待つ必要があった。
4. SAP社の優先順位
- SAPの戦略的フォーカス
SAPは近年、クラウドソリューション(SAP S/4HANA Cloudなど)やブラウザベースのUIであるFioriを推進しており、SAP GUIのような従来型のクライアントアプリケーションは戦略的な優先度が低かった可能性がある。このため、64ビット化の開発が後回しになったと考えられる。
そして64ビット版が登場
SAP GUI for Windows の64ビット化が遅れた理由は、技術的必要性が低かったこと、レガシー環境との互換性を維持する必要があったこと、そしてSAP全体の戦略的優先順位がクラウドやWebベースのソリューションにあったためと考えられる。これらの要因が相まって、慎重かつ計画的な移行が進められた。
他方、近年のWindows環境(Windows 10/11)は64ビット版が主流であり、32ビット版の制約が顕著になってきた。また、Microsoft Officeについても、Microsoftは長らく32ビット推しだったのが、2019年に64ビットをデフォルトとするよう方針転換している。このような背景が、64ビット版のリリースを促進する要因となった可能性がある。
32ビット版と64ビット版の違い

前置きが長くなったが、SAP GUI for Windows の32ビット版と64ビット版の違いを、色々な角度から比較していこう。
外観の違い
外観やユーザーインターフェースに関して違いはない。見た目は全く同じである。
ただし、SAP GUI for Windows 8.00全体(32ビット、64ビット共通)として、以下のような新しい外観や機能が導入されている。
- Quartzテーマの改良
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レンダリングが最新化され、見た目がさらに洗練されているらしい。ただし、言われなければ気付かない程度。
- HTMLコントロールの更新
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従来のInternet Explorer 11からの移行が進められており、デフォルトでMicrosoft EdgeベースのWebView2が使用されるようになっている。
コンピュータリソースの使用量の違い
「RZ10」のレポートによれば、SAP GUI for Windows の64ビット版は32ビット版と比較して、以下のコンピュータリソースの使用量/使用率が異なるとのこと。
- メモリ使用量
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64ビット版は32ビット版に比べて約20%多くのメモリを使用する。これはデータ構造のサイズが異なるためであり、SAP社によれば避けられないとのこと。
- ディスク使用量
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64ビット版はクライアントPC上で約10%多くのディスクスペースを必要とする。これは、64ビットモジュールが32ビットモジュールよりも大きいためである。
- CPU使用率
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64ビット版は32ビット版と比較して、CPU使用率が大幅に低くなっており、シナリオに応じて5%~20%低い。これは、ランタイムの高速化につながり、処理速度の向上が期待できる。
安定性と信頼性の違い
新しいソフトウェアは、初期段階で予期しない問題やバグが発生する可能性がある。SAP GUI for Windows の64ビット版も例外ではない。
64ビット版は、最初のリリースが2023年1月であり、その使用実績は32ビット版と比べて非常に短いため、予期しない不具合が発生する可能性を否定できない。
しかしながら、64ビット版は32ビット版と比較して、安定性と信頼性の向上が期待されている。その理由は、64ビットアーキテクチャに最適化されているため、最新のシステム環境でのパフォーマンスが向上し、リソース管理が効率化されているからだ。64ビット版は、今後ユーザーからのフィードバックや実際の運用を通じて、問題が徐々に報告され、品質は向上していくだろう。将来的に安定性と信頼性を獲得するのは、64ビット版であることに疑いはない。
64ビット版固有の不具合は?
32ビット版では発生せず、64ビット版でのみで発生している不具合はあるようだ。
本稿執筆時点で最新の SAP GUI for Windows 8.00 パッチレベル10の「コンテンツ情報」(全283件)よれば、64ビット版固有の不具合として、以下のSAPノートが登録されていた。
- 3332172 – RFC_START_SAPGUI_FAILURE or timeout when using SAPGui 8.0 64bit by mistake
(パッチレベル3で解決) - 3357086 – Crash in SAP GUI 64 bit if clicked on ‘print preview’
(バッチレベル4で解決) - 3464391 – SAP GUI BARCHART: SAP GUI crashes while displaying tooltip of an icon in 64 bit SAPGUI for windows 8.00.
(パッチレベル8で解決)
一方、32ビット版固有の不具合は、次の1件だけが見つかった。
- 3521930 – MED-111250 – with patch 9 of SAPGui 8 32bit the ISHmed planning grid no longer works
(パッチレベル10で解決)
64ビット版固有の不具合は、多くはないものの存在するのは事実である。これは、歴史が浅く、使用実績の少ないソフトウェアとしての宿命だ。64ビット版は32ビット版と比べてリスクがあるという点は理解しておこう。
64ビット版 SAP GUI for Windows の制限

以下は、SAP Note「3218166 – SAP GUI for Windows: 32ビット版と64ビット版の機能上の相違点」に記載されている、64ビット版 SAP GUI for Windows における制限事項である。
並列インストールはできない
32ビットと64ビットの共存は不可能
SAP GUI for Windows の 32 ビット版と 64 ビット版の並列インストールはできない。既にどちらかをインストール済みの場合、別のビット数の製品をインストールしようとすると、インストール済みの製品を先にアンインストールするよう警告が表示される。

32ビットのみ提供のコントロールはインストール可能
以下のコントロールは32ビット版のみの提供となっているが、64ビット版をインストールする時でも、インストール可能となっている。
- Calendar Synchronization for Microsoft Outlook
- SAP Business Explorer
これらのコントロールは64ビット版のインストーラーの中にも含まれている。そして、Microsoft Office の 32 ビット版を使用している場合は、インストール時に選択してインストールできるようになっている。
64ビット版の特定の制限
- SAP_BASIS 7.00 より下位のシステムに対するサポートなし
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SAP GUI for Windows の 64 ビット版では、SAP_BASIS 7.00 より下位のバージョンで実行されている SAP システムはサポートされていない。64ビット版でSAP_BASIS 7.00 より下位のSAPシステムにログオンしようとすると、ポップアップが表示され、ログオンは拒否される。したがって、SAP_BASIS 7.00よりも旧いSAPシステムを使用し続ける場合、引き続き32ビット版の SAP GUI for Windows を使用しなければならない。
- saprotwr.dll の使用上の注意
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一部のコンポーネントや製品では、COM 経由で SAP GUI スクリプトにアクセスするためにライブラリ saprotwr.dll が使用される。saprotwr.dll は、SAP GUI for Windows の 64 ビット版でインストールした場合は 64 ビットファイルになるため、これにアクセスできるのは 64 ビットのプロセスのみとなる。呼出元のアプリケーションが 32ビットだった場合、64ビットのsaprotwr.dllを呼び出そうとするとエラーが発生する。エラーを出さないためには、32ビットの SAP GUI for Windows を使う必要がある。SAPのヘルプ文書も参照のこと。
- 病院グラフィック (gnhox.exe) の非サポート
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このコンポーネント「病院グラフィック」は、非常に古い SAP システムでのみ使用することができるため、64 ビット版のインストーラーには含まれていない。代替手段として、標準トランザクション「NWP1」を使用する。詳細は、SAPノート「3083686 – IS-H: NR12 – Care Unit Graphic Terminates with Error Message: gnhox.exe – Application Error」を参照。
その他の推奨事項と非コアコンポーネント
- Office統合/Excel インプレース
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SAP GUI for Windows の 64 ビット版でも、Microsft Office の32ビット版と組み合わせて使用することができる(逆の組み合わせも可能)。しかし、SAP社は、製品のビット数を一致させる組み合わせを推奨している。すなわち、SAP GUI for Windowsの64ビット版を使用するなら、Micrsoft Office も64ビット版を使用する。そのほうが、パフォーマンスが向上するとのこと。
- SAPscript エディタ
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SAPscript エディタは SAP GUI for Windows の 64 ビット版でサポートされているが、いくつかの機能拡張が必要である。そのため、SAP GUI for Windows 8.00 とは別に、新しいインストールパッケージが提供されている。これには、SAPscript エディタコントロール用に 32 ビットコンポーネントと 64 ビットコンポーネントの両方が含まれており、SAP GUI for Windows 8.00 の 32 ビット版または 64 ビット版の どちらを使用しているかにかかわらず、SAP GUI for Windows 8.00 と組み合わせて使用する必要がある。
- Crystal Reports 統合
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Crystal Reports を 64 ビット版の SAP GUI for Windows と統合するには、Crystal Reports Adapter の更新版が必要である。これは、CR ADD-ON FOR BS APPS 1.0 SP06 以降で提供されている。SAPノート「1353044 – SAP Business Suite アプリのインストールガイド CR ビューア」も参照のこと。
どのようなユーザーが64ビット版を使うべきか

SAP GUI for Windows の32ビット版と64ビット版、それぞれ、どのようなユーザーに適しているか、判断材料となる項目を比較表にしてみた。
比較項目 | 32ビット版が適しているユーザー | 64ビット版が適しているユーザー |
---|---|---|
業務内容 | 日常的なデータ入力、レポート参照など | 大規模データ処理、複雑なレポート作成 |
ハードウェア(PC)環境 | 搭載メモリが少ない。 | 大容量メモリを搭載(メモリ消費量が20%増加するため)。 |
互換性 | 32ビットのコンポーネントを利用したカスタムソリューションを多数構築している(一部のコンポーネントは64ビット化されないため)。 | 32ビットのコンポーネントに依存したソリューションを構築していない。 |
安定性 | 安定性重視。 長年培った技術なので安定している。 | 安定よりもパフォーマンス重視。 歴史が浅いため、予期せぬ不具合が出る可能性あり。 |
導入コスト | 現状維持なので基本的にかからない。コストを抑えたい。 | Excelマクロなど、NWRFCコントロールを利用したカスタムソリューションを構築している場合、64ビット化のための改修コストがかかる。 |
SAPシステムの導入状況 | 導入済み。 | これから導入する。 |
Microsoft Office | 32ビット版を利用中。 | 64ビット版を利用中。 |
システム管理者の方針 | 互換性と既存環境維持を優先。 コスト抑制重視。 | 最新技術導入を優先。 コストよりもパフォーマンス重視。 |
ポイント
- 32ビット版
NWRFCコントロール依存のExcelマクロやVBAを利用している企業では、32ビット版の方が互換性を確保しやすく、既存システムの延命に適している。 - 64ビット版
高性能を求める場合や、新規システム構築時には推奨される。また、NWRFCコントロールに依存するマクロを利用している企業においては、改修のための時間とコストを許容できるなら、64ビット版へ移行できる。
Microsoft Office のビット数に合わせる
SAP GUI for Windows を単独で使う場合、32ビット/64ビット、どちらを使っても構わない。使用感に差はないはずだ。
32ビット/64ビットを意識する必要があるのは、ExcelなどMicrosoft Officeからマクロ(VBA)を用い、SAPシステムにアクセスするソリューションを構築している場合である。
「以前から64ビット化されていた?」で述べた通り、OfficeのマクロからSAPシステムにアクセスするには「NWRFCコントール」を利用することになるが、このコントロールは32ビットのOfficeからは32ビットのものしか呼び出せない。同様に、64ビットのOfficeからは64ビットのコントロールしか呼び出せない。つまり、NWRFCコントールのビット数を、Officeのビット数と一致するよう、インストールを選択する必要がある。
Microsoft Officeの32ビット/64ビットと、SAP GUI for Windowsのインストールの組み合わせは次のようになる。
Microsoft Office | インストールする SAP GUI for Windows | ||
7.60以前※ | 7.70※ | 8.00 | |
32ビット版 | 通常通りインストール(32ビット版のみ) | 通常通りインストール(32ビット版のみ) | 32ビット版をインストール |
64ビット版 | インストール不可 | 「64Bit RFC Controls」を追加インストール | 32ビット版+「64Bit RFC Controls」を追加インストール 64ビット版をインストール |
- リリース7.70以前のSAP GUI for Windowsはサポートを終了している。詳細はSAPノート「147519 – SAP GUI for Windows/SAP GUI for Java の保守方針/期限」を参照。
SAP GUI for Windowsの将来
SAP社は、SAP GUI for Windows 8.00 によって32ビット版と64ビット版の両方の提供を開始した。しかし、この記事の執筆時点において、将来的に32ビット版のサポートを終了し、64ビット版に完全移行するという公式な発表は出していない。64ビット版の提供開始は、最新の技術スタックやシステム要件に対応するための動きと考えられる。
SAPユーザーとしては、SAPからの公式アナウンスやサポート情報を定期的に確認し、システム要件や業務ニーズに応じて適切なバージョンを選択することが重要だ。
SAP GUI for Windows の保守方針やリリース予定日については、以下のSAPノートを定期的にチェックするとよいだろう。
まとめ
SAP GUI for Windowsの32ビット版と64ビット版の違いと、どのようなユーザーに適しているかを表にまとめておく。
32ビット版 | 64ビット版 | |
---|---|---|
ハードウェア(PC)への影響 | メモリをあまり使用せず軽量。 既存のPCを利用し続ける場合、基本的に影響なし。 | 32ビット版と比べてメモリ使用量が20%増加。 CPU使用率は低くなっているので、処理性能の向上が期待できる。 |
制限 | 従来からあるシステムなので特になし。 | SAP_BASIS 7.00 より下位のシステムには使えない。 一部のコンポーネントは64ビット化されていないため、運用中のソリューションが影響を受けないか確認する必要あり。 |
不安要素 | 歴史が浅いため、バグが潜んでいる可能性が32ビット版よりも高い。 | |
適しているユーザー | 32ビットのコントロールに依存したカスタムソリューションを多数構築しているユーザー。 安定性と互換性を重視するユーザー。 | これからSAPシステムを導入するユーザー。 最新機能を早く使いたいユーザー。 |
SAP GUI for Windowsの64ビット版は、32ビット版よりもCPUの使用率を抑えられるなどメリットはあるものの、一部のコントロールが提供されないといった制限もある。そのような32ビットの「NWRFCコントール」に依存したカスタムソリューションを構築しているかが、64ビット版に移行できるかのポイントになるため、現在運用中の動作環境を確認することが重要だ。
本記事が、64ビット版の SAP GUI for Windows の導入を検討中のSAPユーザーの役に立てば幸いである。
SAP GUI for Windowsを使いにくいと感じているなら、それはデフォルト設定のままだからかもしれない。SAP GUI for Windowsをインストールしたら、必ずやるべき設定✕5選を紹介した記事は以下。

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