SAP S/4HANAのバージョンアップ情報は、システム運用に欠かせない重要な要素である。しかし、バージョンアップのリリース資料に書かれている情報は膨大で、全てを読み解くには時間と労力、根性が必要だ。FPS(Feature Package Stack)やSPS(Support Package Stack)のリリース資料を読み解き、自分の企業や業務に必要な情報を抽出する作業は、非常に手間のかかるプロセスである。
しかし、生成AIを使えば、膨大なリリース資料から変更点を瞬時に抽出し、解りやすく解説してくれる。しかも、関心のある部分だけを取り出して、一覧表にすることも可能だ。
本記事では、SAPシステムのバージョンアップ情報の中身を素早く知る方法として、生成AIの活用手順を解説する。
SAPのバージョンアップの種類を理解しよう
バージョンアップの種類
SAP S/4HANAは定期的にバージョンアップがリリースされる。バージョンアップには以下の3種類がある。
- メジャーリリース
-
主に大規模な機能追加やシステム変更を行う。
例:SAP S/4HANA 1909 → 2021。 - SPS(Support Package Stack)
-
主に修正プログラムやパフォーマンス向上を含むリリース。
- FPS(Feature Package Stack)
-
新機能の追加を伴うリリース。SPSよりも重要なアップデートが含まれることが多い。
これらの違いを押さえることが、SAPのバージョンアップを理解する第一歩だ。
大雑把に言えば、
メジャーリリース・・・モデルチェンジ
FPS・・・新機能の追加
SPS・・・バグフィックス
SAP S/4HANA のリリースサイクル
SAP Help Portal にある SAP S/4HANA のリリースサイクルには、メジャーバージョンアップしてからの、FPS、SPSがリリースされるタイミングについて書かれている。
メジャーリリース | FPS | SPS | |
---|---|---|---|
例 | SAP S/4HANA 2023 | SAP S/4HANA 2023 FPS01 (英語) | SAP S/4HANA 2023 SPS04 |
リリース数と頻度 | 2年に1回 | リリースごとに 3 つ (FPS01、FPS02、FPS03) | SPS04以降、年に1〜2回 |
変更内容 | 大幅な変更、拡張、および置換 | 小さな変更と機能強化。法改正を含む ソフトウェアの修正 | 主にソフトウェアの修正と法改正 |
変更の多さ・規模 | 非常に多い (全体的な変更が伴う) | 多い (新機能導入を含む大規模修正) | 中程度 (既知のバグ修正が中心) |
SAP Noteでも修正モジュールは提供される
SAP Note(SAPノート)は、SAP社が提供する公式の技術情報や修正モジュールのドキュメントであり、SAP S/4HANAやその他のSAP製品に関連する問題の解決に使用される。これには以下の内容が含まれる。
- バグ修正
-
特定のシステムエラーやバグを修正するためのコード修正や設定の手順が記載されている。これにより、システムの安定性や機能性を向上させることができる。
- 修正モジュールの提供
-
必要に応じて、修正モジュール(コード修正パッチ)がSAP Noteに添付されており、これをシステムに適用することで問題を解決する。
- ガイドラインやベストプラクティス
-
機能や設定に関する具体的な指示やベストプラクティスが記載されている場合もある。たとえば、特定のエラーメッセージに対する回避策や設定の変更方法などが含まれる。
- 最新情報の提供
-
SAP製品のアップデートやサポートに関する情報が含まれており、ユーザーが最新の変更や修正を把握できるようになっている。
SAP Noteは、SAP Support Portalやトランザクションコード「SNOTE」(SAP GUI上で利用可能)を通じてアクセスできる。特に、システムの問題を迅速に解決するために重要なリソースであり、SAPコンサルタントにとって不可欠な情報である。
SAP Noteは修正モジュールだけでなく、設定のガイドラインも書かれているから、SAPコンサルタントは見る機会の多い資料だ。
バージョンアップしたらテストは不可欠
バージョンアップは良いことばかりではない。ソフトウェアの変更はリスクを伴う。
ソフトウェアの宿命として、コードの変更量と品質の高さは反比例の関係にある。バージョンアップに伴うリスクを理解し、変更の多さに応じたテストは不可欠だ。
バージョンアップの種類と変更の範囲、それぞれのリスク=バグを含む可能性を纏めた表は以下。
メジャーリリース | FPS | SPS | SAP Note | |
---|---|---|---|---|
変更の範囲 | システム全体 | システム全体、特定の新機能 | システム全体、既存機能 | 特定の問題やモジュール |
変更の多さ | 非常に多い (全体的な変更が伴う) | 多い (新機能導入を含む大規模修正) | 中程度 (既知のバグ修正が中心) | 少ない (特定の問題に限定した修正) |
リスク=バグを含む可能性 | 高い | 高い | 低い~中程度 | 低い |
リスクの内容 | 大幅な変更が導入されるため、非互換性や未確認の相互作用が生じる。 | 新機能の導入による未発見のバグや既存システムとの互換性の問題が生じる。 | 主に既存のバグ修正やセキュリティ改善を目的としているため、新しいコードの導入が少なく、既存機能に対するリグレッションのリスクも管理されている。 SAPが事前に十分なテストを行い、安定性を重視している。 | 特定の問題に焦点を当てた修正のため、影響範囲が狭い場合が多い。 明確な手順と指示が提供されているため、適切に実行すれば予期しない問題が発生するリスクは低い。 |
必要なテスト | 徹底的なテストが必要 | 既存のビジネスプロセスと機能の回帰テスト、必要な新機能のテスト | 回帰テストを推奨 | 問題があった箇所が修正されていることのテスト |
SAPシステムのバージョンアップは、Windows Updateのような手軽なものではない。基幹システムのソフトウェアが正常に動作しなくなってしまえば、日々の業務に甚大な被害が出かねない。バージョンアップの実施には、周到な準備と、レグレッションテスト※が不可欠だ。企業やプロジェクトによっては、数ヶ月をかけて実施することも珍しくない。
- ソフトウェアテストの一種で、機能の追加・変更、不具合の改修などに伴うプログラムの変更によって、別のプログラムに意図しない不具合が発生していないかどうかを確認するためのテスト。回帰テストとも呼ばれる。
バージョンアップ情報の入手方法
バージョンアップ情報はどこで手に入る?
SAPのバージョンアップに関する情報は、公式ウェブサイトや専用の技術資料で公開されている。以下のリンクを確認することで、最新の情報を入手可能だ。
ドキュメントの入手方法
FPS/SPSに関するドキュメントは、SAP Help Portal より入手できる。
たとえば、SAP S/4HANA Cloud Private Edition のFPSのドキュメントを入手したい場合は、上記サイトより “SAP S/4HANA Cloud Private Edition“に移動後、”Feature Scope Description“にあるPDFをダウンロードすればよい。
ただし、ダウンロードしたPDFには膨大な情報が含まれ、必要な箇所を特定するには、相当な時間と労力がかかる。
バージョンアップ情報を知るのは、なぜ大変?
SAPのリリース資料は通常、数十ページから数百ページに及ぶ。たとえば、上記の SAP S/4HANA Cloud Private Edition のFPSの資料は、730頁にもおよぶ大作である。
リリース資料は膨大な量に加え、高度に専門的だ。この大量の英語文書を読んで内容を理解し、自社の業務に関係のありそうな箇所を抽出しなければならない。それは気の遠くなるようなプロセスだ。
リリース資料から必要な情報を抽出するには、次のような課題がある。
- 分量が多く、読み通すのに時間がかかる。
- 専門用語や技術的な記述が多い。
- 自分にとって重要な変更点を特定するのが難しい。
これらの理由から、多くの企業やプロジェクトが、バージョンアップ情報の把握と理解に苦しんでいる。
S/4HANA 2023 FPS3の資料は730頁もある!
そんな量を読めるか!!
バージョンアップ資料を読み解くには、相当な時間と労力がかかる!
時間と労力をかけずにバージョンアップ情報を知りたいなら、生成AI!
その方法をこれから紹介するぞ!
生成AIを活用すれば、情報の抽出は一瞬
秒で変更情報を抽出
生成AIを活用すれば、膨大なリリース資料を素早く、要領良く読み解くことが可能だ。生成AIを使うメリットは次の通りだ。
- 迅速な情報抽出:資料をアップロードすれば、変更点を一瞬でリストアップできる。
- 抽出する情報を選べる:関心のある分野を指示すれば、その部分だけを選択して要約してくれる。
- 高い正確性:重要な変更点を見逃さない。
生成AIは、何百頁もあるPDFのドキュメントを、ほんの数秒で解読してしまう。その速さは感動モノ。
資料をアップロードしたあとは、知りたいことを生成AIに質問していけばいい。ドキュメントを読む手間を完全に省けるので、圧倒的な時短になるのだ。
生成AIでSAP資料を読み取らせる方法
以下は、ChatGPTを使用して、SAPのリリース資料を効率的に読み解く手順である。
一言で言えば、PDFの資料をChatGPTに丸投げした後、質問するだけである。
- リリース資料(PDF)を、ChatGPTに黙って貼り付ける。
- 次のようなプロンプトを使用して、質問を開始する。
- 全体を要約:「この資料の要点を簡潔にまとめてください。」
- 特定の変更点を抽出:「SPSの変更点のみをピックアップしてください。」
- 表形式で整理:「FPSの新機能を表形式でリストアップしてください。」
- バグフィックスの情報:「バグフィックスに関する情報をリストアップしてください。」
バージョンアップ資料のPDFをChatGPTに貼り付け、あとは質問していくだけ。
資料を読む手間がなくなり、自分に関心のある情報だけを、ChatGPTに質問しながら取り出せるので、めちゃくちゃ効率的!
生成AIでモジュール別の変更点の一覧表を作る方法
質問を次々にしていくのもよいが、FI,CO,SD,MM … など、モジュール別に変更点の一覧表にすれば見やすく理解しやすい。
モジュール別の変更点の一覧表を作成するには、次のようなプロンプトを使用する。
モジュール別の変更点の一覧を作成するプロンプト
#依頼 あなたは{#役割}です。送信した資料は{#資料}という、SAP S/4HANAのバージョンアップに関する情報をまとめたものです。 この資料を解読し、{#SAPモジュール}毎に要点を{#形式}の形式で出力してください。 表の列は{#表の列}です。 {#ルール}を必ず守ってください。 #役割 SAPシステムのバージョンアップの専門家 #資料 SAP S/4HANA Cloud Private Edition 2023 Feature Scope Description #SAPモジュール -FI -CO -SD -MM -PP -PS -QM -PM -HR -上記以外のSAPモジュール #表の列 -変更点: 変更点を短い名称にする -変更の種類: 「機能の追加」「機能の変更」「機能の削減」「問題の修正」のいずれか -変更点の説明 -影響を受けるS/4モジュール -注意点 -ページ番号: 番号のみを出力すること -インパクト: 高、中、低の三段階 #ルール -表の「影響を受けるS/4モジュール」には、表を出力しているSAPモジュール自体は表示しないこと。 -資料は詳細に調査し、漏れがないようにすること。 -エンドユーザでも理解できる文章にすること。 -変更点の重複は許可する。 -ハルシネーションは出さないこと。
ChatGPT 4o による出力例
上記のプロンプトを、ChatGPT 4oを使って実行すると、次のような出力を得られる。
出力された変更点が少ないなぁと感じた場合は、
「〇〇モジュールの変更点の数が少ないようですが、正確ですか?」
のような質問を追加すれば、資料が精査され、結果を再出力してくれる。
また、説明が物足りないようであれば、
「今の表は70点です。100点の表にしてください。」
という指示を加えると、表が修正されて出力される。
追加するだけでChatGPTの回答精度がアップするキーワードをまとめた記事は以下。
まとめ:SAPのバージョンアップ情報を最短で把握するには生成AIが最適
SAP S/4HANAのSPSやFPSといったバージョンアップ情報は膨大で理解が難しい。しかし、生成AIを活用すれば、資料を読み込む負担を大幅に軽減できる。さらに、上記のプロンプトを使えば、色々と指示や質問をする手間も省けるので時短になる。
生成AIを活用すれば、一瞬にして、必要な情報を簡単に抽出することが可能だ。膨大で難解なSAPドキュメントを読みたくないという人は、生成AIを是非活用してほしい。驚くほどの業務効率を実感できるはずだ。
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