どのプロジェクトの現場でも課題は発生する。
そして、「課題管理」は必ず行われている。
課題を課題管理表に記載し、担当者を決め、対応状況を可視化し、解決していく――
プロジェクト経験者であれば、誰もが経験したことがあるだろう。
しかし現実はどうだろうか。
課題管理表を真面目に運用しているはずなのに、課題は減るどころか増え続ける。
毎週の定例会では新しい課題が報告され、古い課題は「継続」「検討中」のまま残り続ける・・・
本記事では、この「課題はなぜ減らないのか?」という根本的な問いに正面から向き合い、課題とは何か、なぜ増殖するのか、どうすれば減らせるのかを、実務ですぐに使えるアクションアイテムとして紹介する。
また、感覚論や精神論ではなく、プロジェクトマネジメント標準であるPMBOKの考え方も踏まえた手法と、課題管理を効率良く行うためのツールも紹介する。
減らない課題に悩んでいるPM/PMOにとって、本記事は参考になる情報を多く含んでいるはずだ。
是非最後まで読んでいただき、効率的な課題管理の役に立てていただきたい。
間違いだらけの課題管理
課題管理表が増殖する本当の理由
課題管理表の課題がすぐに増えてしまう最大の原因は、そもそも課題ではないものまで課題として登録している点にある。
多くのプロジェクトでは、
- 困ったこと
- あとでやるべき作業
- なんとなく不安なこと
までもが、安易に課題管理表へ放り込まれる。
これらが無差別に課題管理表へ登録されると、課題は雪だるま式に増えていく。
その結果、課題管理表は次第に肥大化し、本来の役割を果たせなくなる。
課題管理表は「非常ベル」である
課題とは、プロジェクトにとっての火事である。
課題管理表は、その火事を関係者に知らせるための非常ベルだ。
- 重大な危険をいち早く知らせる
- 適切な担当者を消火(解決)に向かわせる
- プロジェクト全体への影響を最小化する
これが本来の役割である。
しかし、課題ではないものまで登録してしまえばどうなるか?
非常ベルは常に鳴りっぱなしになり、本当の火災に誰も気づかなくなる。
その結果、火炎は消されることなく、いつまでも燃え続ける。
最悪の運用例:To-Doを課題として扱う
課題管理が破綻しているプロジェクトによく見られるケースに、
「あとでやるべきこと」
すなわち「To-Do」を課題管理表に混在させて管理するケースだ。
- 資料を作成する
- 会議を設定する
- 質問に答える
これらは課題ではない。
単なる作業であり、タスクだ。
それ課題管理表に書いておいて
課題管理表を備忘録のように使い始めた瞬間、そのプロジェクトは「減ることのない課題の沼」に足を踏み入れている。
そもそも課題とは何か
課題が増えるプロジェクトの共通点
課題が増え続けるプロジェクトでは、例外なく課題の定義が曖昧である。
「課題とは何か?」がチーム内で共有されていない。
課題・リスク・To-Do・心配事の違い
まずは、課題・リスク・To-Do・メモ・心配事 を明確に分けておく必要がある。
| 区分 | 内容 | 適切な登録先 |
|---|---|---|
| 課題 (Issue) | すでに顕在化しており、プロジェクトのQCDに悪影響を与えているもの。解決策の検討や意思決定が必要。 | 「課題管理」表 |
| リスク (Risk) | 将来発生する可能性があり、起きた場合にQCDへ影響を与える不確定要素。発生前なので監視・対応計画が中心。 | ❌別途「リスク管理表」で管理 |
| To-Do/タスク | 個人やチームが行えば解決する作業。大きな意思決定を伴わない。 | ❌ 課題管理表には載せない(タスク管理ツールで管理) |
| メモ/情報 | 知識共有や注意喚起レベル。問題化していない。 | ❌ Wikiや議事録に記録 |
| 心配事 | リスクよりも緩い、漠然とした不安や悩み。 | そもそも管理対象外 |
これらを混在させてはいけない。
課題はQCDに影響するものだけ
PMBOKでは、課題(Issue)とはプロジェクト目標に影響を及ぼす問題として扱われる。
つまり、QCD(Quality・Cost・Delivery)に影響があるものだけが課題である。
- 品質が落ちるのか
- コストが膨らむのか
- 納期が遅れるのか
これらに該当しないものは、課題ではない。
課題を登録する前に、必ず以下を問うてほしい。
- この課題はQ・C・Dのどれに影響するのか?
- 影響しないなら、なぜ課題なのか?
答えられなければ、それは課題ではない。
課題対応の優先順位を決める
課題にも「大小」がある
火事にも、大火事から小火まである。
課題も同じだ。
すべての課題を同じ重さで扱ってはいけない。
リソースは有限であり、大きな課題から潰す必要がある。
主観で判断しない
どのプロジェクトでも、課題には「重さ」や「優先順位」を付けて管理しているはずだ。
しかし危険なのは、課題の優先順位を声の大きい人の意見に迎合して決めることだ。
- 上司が気にしているから重要
- 強く主張されたから優先
- なんとなくヤバそう
こうした感覚的な判断は、本当に優先的に対処すべき課題を隠してしまう。
課題の重さや解決の優先順位を判断する基準は、「人の意見」ではなく「QCDへの影響の大きさ」でなくてはならない。
「どのくらい」が主観を排除する
その課題は、Q・C・Dのどれに、どのくらい影響するのか?
影響度を数値化する。
「なんとなくヤバそう」
「たぶん影響あると思う」
といった主観に振り回されないためにも、数字で語るのが有効だ。
議論もスムーズになるし、優先順位もはっきりする。
以下は、QCDを定性的に評価した場合と、定量的に評価した場合の違いである。
| 定性的評価の例 | 定量的評価の例 |
|---|---|
| Q:品質にちょっと不安がある C:アドオン化すると予算をオーバーする D:その機能をスコープインさせると納期が遅れる | Q:テストケース100件中、バグが20件発生している C:アドオン化すると、予算が400万円超過する D:その機能をスコープインさせると、納期が3ヶ月遅延する |
定量的に見てみると、
「え、それってそこまで重大だったの?」
と気づくことがある。
逆に、誰かが「これは絶対ヤバい!」と騒いでいても、数値で見てみると
「いや、そこまででもないな。今は後回しでいい」
と冷静に判断できることもある。
要は、感覚だけで動くと判断を誤るが、数字で判断すれば正しい判断ができるという話だ。
基準を明確にしておく
QCDへの影響を考える際、以下のような判断基準を設けておくと整理が進む。
- 影響度基準
-
- 工程遅延見込みが 3日以上
- コスト増が 30万円以上
- 品質への影響が ユーザ受入テスト以降の工程に及ぶ場合
- 決定レベル基準
-
- PM/PL以上の判断 が必要なもの
- 複数のSAPモジュール/部署/ベンダに跨る調整が必要なもの
- 進行障害基準
-
- 放置すると工程が進まない
- 依存関係のある後続のタスクが止まってしまう
QCD、特にD(納期)で優先度を決める
課題の優先順位を決めるのに特に有効なのは、次フェーズに進めるかどうか、という観点だ。
特に、QCDの「D(工程)」に影響を与えるかどうかの判断が重要だ。
工程が遅れれば、Q(品質・仕様)を達成する余裕はなくなり、
工程が遅れれば、C(コスト)は結果的に悪化する。
このように、Dの悪化はQとCにも影響を及ぼす。
次フェーズに進めるかどうかの観点からの「重さ」は、以下の3段階で分類しておけば十分である。
課題の優先順位(三段階)
- A:解決策がなければ次に進めない
- B:代替策があり次に進める
- C:未解決でも次に進める(必要に応じてTo-Do管理に移動する)
課題の放置を防ぐ!アクション × 8選
以下は、「課題を放置させないために、すぐに実践可能なアクション」の8選である。
言い換えれば、これらができていないプロジェクトでは、課題の放置が起きやすくなっているはずだ。
自分達のプロジェクトではどうか、ぜひチェックしてみてほしい。
アクション① 課題をシンプルに言語化する
課題管理表に書く課題は、「何が起きており、何が問題なのか」をシンプルに書くようにする。
課題が曖昧だと、何をすれば解決できるのか判断できず、誰も動けない。
つまり、放置されがちな課題の多くは、「そもそも何が課題なのかよくわからない」という、曖昧な内容になっている。
曖昧な課題とは、たとえば次のような書き方だ。
- NG例:曖昧な課題の書き方
-
「スケジュール通りに進んでいない。」
- この書き方の問題点
-
- 「何」がスケジュール通りに進んでいないのか不明。
- QCDのどれにどの程度の影響を与えているのか読み取れない。
- 課題が曖昧なので、何をすれば解決できるのかわからない(結果、課題が放置される)。
- 改善例:QCDへの影響が明確な課題の書き方
-
「ソフトウェア単体試験の遅れにより、ソフトウェア結合試験の開始が2週間遅延。」
このように、「何が起きているか(事実)」と「それがQCDのどこにどう影響しているか」を書くと、課題が明確になり、解決のアクションもとりやすくなる。
アクション② QCDへの影響を明示する
書かれている課題は、Q:品質・C:コスト・D:納期 のどれに、どの程度影響するのか。
これを定量的に説明できない課題は、そもそも課題ではない。
課題管理表には、「QCDへの影響度」を定量的に書き込むための入力欄を作っておくとよい。
アクション③ 担当者を一人に決める
課題の担当者には、必ず一人の責任者(Responsibility)を任命し、課題管理表にはその人の名前を明記するようにする。
ありがちなミスが、「〇〇チーム」といった形で”チーム全体”を担当者にしてしまうことだ。
「〇〇チームの誰かさん」という曖昧なアサインメントが習慣化すると、〇〇チームの誰も本気で動かない。
これは「綱引き効果(リンゲルマン効果)」と呼ばれる心理現象によるもので、集団で作業をする場面では「誰かがやるだろう」と思ってしまい、結果として一人ひとりの努力や貢献度が下がってしまう。いわゆる“社会的手抜き”というやつが起きる。
この綱引き効果を防ぐには、「集団ではなく個人を指名する」のが最も効果的とされている。
課題管理表においても、課題を解決する「個人」を明確に記載しておくことが重要だ。
アクション④ 期限を設定する
期限のない課題、すわなち「そのうちやろう」という状態では、課題はいつまで経っても解決されない。
完了日を明確にすることが、行動を生む。
人を動かす原動力は「期限」である。
アクション⑤ 課題はひとつだけ
ひとつの課題に、複数の内容を詰め込んではいけない。
課題管理表でいえば、1行に書いていい課題は、ひとつだけだ。
一度に複数の課題を書いてしまうと、結局何が本当の課題なのかがわかりにくくなる。
さらに、書かれているすべての課題を解決しない限りクローズできないため、課題がいつまでも残っているように見えてしまう。
また、複数の課題のままでは、一人の担当者に過剰な負担をかけることになり、効率も悪い。
複数の課題は、ひとつひとつの課題に分解することで、何が問題なのかが明確になる。
さらに、それぞれの課題に担当者を割り当てれば、解決までのスピードも格段に上がる。
アクション⑥ 定例で必ずレビューする
課題があること自体は、決して問題ではない。
プロジェクトを進めていれば、課題は必ず発生するものであり、それが見えているということは、むしろ健全にプロジェクトが運営されている証拠でもある。
本当に問題なのは、「課題が放置される」状態だ。
放置課題としないためには、定例会などの場で「課題解決の進捗」を必ず確認する仕組み(残課題を棚卸しする場)を作っておく。
アクション⑦ 完了条件を明確にしておく
その課題は、何をもって「解決」とするのか。
解決したことを判断できる人物は「誰」なのか。
これらが曖昧な課題は、いつまでもクローズできない。
課題管理表に登録する時点で「完了条件」を決めておく。
アクション⑧ 別の場所を用意しておく
課題管理表を見ていると、明らかに「これ、課題じゃないよね?」という内容が紛れ込んでいることがある。
たとえば、ちょっとした備忘メモや、ただのToDo、誰かの気づきのようなものだ。
こうしたものが混在している理由をメンバーに聞いてみると、よく返ってくるのがこの一言。
記録する場所がなかったから
なるほど、その気持ちはよくわかる。
でも、課題と課題でないものが同じリストに入ってしまうと、本当に対応すべき課題が埋もれてしまうリスクがある。
QCDに影響しないけれど、残しておきたい気づきやタスクについては、「パーキングロット」や「備忘メモ」といった別の枠組みを用意しておくのがおすすめだ。
課題は課題、メモはメモ。
管理の場所を分けることで、一貫性と運用効率はぐっと上がる。
Excelではなく課題管理ツールを使おう
なぜExcel課題管理は破綻するのか
プロジェクトの課題管理は、「とりあえずExcelでやろう」となりがちだ。
Excelは誰でも使えるし、自由度も高い。だからこそ「これで十分」と思ってしまう。
しかし、プロジェクトが進むにつれ、だんだんと扱いづらくなってくる。
その結果、Excelでの課題管理は早晩破綻する。その理由は以下の通りだ。
- 同時編集に弱い
-
複数人で同時に編集しようとすると、ファイルが書込みロックされたり、最新の状態がわからなくなったりする。
プロジェクトメンバーが数人ならまだしも、数十人規模の体制ではかなり厳しい。 - 履歴管理がめんどう
-
Excelには「この課題にどんなやりとりがあったか?」という履歴を残す仕組みがない。
毎回コメント欄を増やしたり、変更日や担当者を手入力したりと、自分たちで運用ルールを整えないといけない。
たとえルールを整えたとしても、こうしたルールは往々にして守られない。 - 担当者・期限が曖昧になりやすい
-
課題管理に不可欠な「担当者」や「期限」などの項目を用意しても、入力を省略できてしまうのがExcelの弱点だ。
記入漏れが発生しやすく、誰がいつまでにやるのか、不明確になりがちだ。 - ステータスを追いにくい
-
「この課題って、もう終わったの?」「誰が対応してるの?」「まだ保留中のまま?」
こんな会話が日常的に飛び交うのが、Excel課題管理の“あるある”である。
完了・未完了の記載ミスや更新漏れが起きやすく、未解決なのに勝手にクローズされるという事態も起きてしまう。
要するに、ステータスや進捗を把握するのに手間がかかる。 - 情報共有に向いていない
-
Excelにはワークフローや通知の仕組みがない。
課題が更新されたことを誰にも知らせず、関係者が気づかないまま放置される、というのはよくある話だ。
「その課題、私が担当だったの?」といった根本的な認識ズレも珍しくない。
これらを防ぐには、連絡手段や運用ルールを別で決めておく必要があるが、なかなか煩雑である。
そして、課題は放置される
こういったExcel課題管理の“弱点”が積み重なると、どうなるか?
- 課題が放置される
- 担当が不明なまま
- 解決済みかどうかもわからない
- 気づいたら、未解決の課題が山のように…
つまり、「課題が管理されていない課題管理表」が出来上がってしまうのだ。
「餅は餅屋」課題管理ツールを使うべし
課題管理には、課題管理が得意なツールを使うべきである。
- asana
- Jooto
- Redmine
- Stock
いずれも課題やタスクを効率良く管理する前提で設計されている。
課題の放置を防ぐ!アクション×8選 で指摘した「担当者」「期限」などの必須管理項目についても、強制的に入力させることが可能だ。
Redmineとは
Redmineの特長
「Redmine」は、オープンソースの課題管理ツールである。
課題を「チケット」として管理し、チケット単位に担当者・期限・進捗を設定することで、課題の状態(未着手/着手/解決済みなど)を可視化・追跡できる。
オープンソースなので基本的に無料であり、Linuxサーバに自分でインストールして使うのが一般的であるが、最近はクラウド型のサブスクサービスとして展開しているプロバイダも存在するので、課金すればすぐに利用開始できる。
Redmineが課題管理に向いている理由
Redmineはプロジェクト管理ツールとしての機能も備えているが、課題管理にこそ威力を発揮するツールだと言える。
そう考える最大の理由は、Redmineが備えるワークフロー機能だ。
課題チケットに担当者を割り当てると、自動でメール通知が送信される。
つまり、課題をチケットとして登録した瞬間に、
「あなたはこの課題を解決する担当者に任命されました。着手してください」
というメールが、任命された担当者に自動送信される。
この仕組みによって、
「聞いてないよ!」
という認識齟齬を、ほぼ完全に防止できる。
これはExcelでは決して実現できない。
また、通知機能はワークフローと連動しているので、課題の状態、たとえば「未着手」「着手」「完了」という課題への対処進捗を可視化できる。
さらに、項目の入力できる・できないを担当者別に制御できるので、「課題を勝手にクローズ」するという誤操作も防止できる。
このように、課題の放置を構造的に防止できる点が、Redmine最大の強みである。
課題管理の仕組みは最初に決めておく
課題管理のやり方は、プロジェクトの立ち上げ段階で決めておくのが鉄則である。
- 課題管理とTo-Doを混在させない運用
- QCDに影響のある事象のみを課題とする方針を徹底させる
- Excel課題管理から、課題管理ツールへの変更
こういったことを、運用が始まってから方向転換しようとすると、想像以上に大変だ。
- 過去の記録を整理し直す手間
- メンバーへの説明と再教育
- ツール変更に伴うデータ移行の手間、メンバの混乱や抵抗
これらが一気にのしかかってくる。
だからこそ、最初の段階でルールをしっかり決めておくことが重要だ。
まとめ|課題管理の本質
究極的に言えば、課題管理に必要な要素は3つしかない。
- QCDの観点から正しく定義された課題(Well-defined Issue)
- 課題を解決する担当者(Responsibility)
- 期限(Due Date)
この3点が揃わない課題は、解決できないどころか、そもそも「課題」として成立していない。
ピーター・ドラッカーは次のような言葉を残している。
課題管理も同じだ。
課題を正しく定義できれば、その裏返しはそのまま解決策になる。
そして、何より重要なのは、課題解決を他人任せにしないという姿勢だ。
この心構えこそが、課題の増殖を抑え、課題解決を加速させ、プロジェクトを成功へ導く原動力となる。
本記事で紹介した方法論やアクションアイテムが、課題管理のやり方を見直すきっかけになれば幸いである。


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