「Googleトレンド」は、世界の流行り・廃りを一目で把握できる便利な無料ツールである。本記事では、その「Googleトレンド」を活用し、SAPにおけるUI、すなわち従来の SAP GUI と新たな SAP Fiori の検索動向から利用実態を探った。
その結果、UIの利用傾向が明らかになっただけでなく、日本におけるITプロジェクト特有の課題も浮かび上がってきたのである。興味深い調査結果と、そこから透けて見える日本のITプロジェクトの問題点について、ぜひ最後まで読んでいただきたい。
Googleトレンドで流行り・廃りを調べる
Googleトレンドって何?
最新の話題を一瞬でキャッチする便利ツール
Googleトレンドとは、Googleで検索されたキーワードの人気度をリアルタイムで分析できる無料ツールである。
たとえば、「今どんなワードが流行っているのか?」「特定のキーワードの人気は上昇中か下降中か?」といった情報を簡単に把握できるのが特徴だ。
「〇〇がバズってる!」といった話題を耳にすることがあるだろう。しかし、その「バズり」の真相をデータで追跡できるのがGoogleトレンドの強みである。世の中のトレンドをいち早くキャッチしたいなら、絶対にチェックすべきツールだ。
「検索」は、世の中の流行りをストレートに映す。人々の関心が高ければ高いほど、そのキーワードはGoogleで検索される。検索トレンドを時系列で見れば、流行り・廃りがわかるというわけだ。
今回は、このGoogleトレンドを使い、SAPシステムのユーザインタフェースのトレンドを調べてみた。
Googleトレンドの使い方
Googleトレンドの使い方はとても簡単だ。
Googleトレンドのサイト(下のリンク)にアクセスし、検索したい言葉を入力するだけ。
検索したい言葉は複数を指定できる。期間や地域を絞ることも可能だ。
SAP GUI と Fiori の検索トレンド
Googleトレンドを使い、次の2つのキーワード
- SAP GUI
- SAP Fiori
の検索トレンド=人気度を調べたのが、以下のグラフだ。調査期間は、SAP Fiori が発表された2013年5月から、2024年2月末までとしてある。
世界全体の傾向 今はやはり・・・
まず、すべての国の「SAP GUI」と「SAP Fiori」の人気度グラフがこちら。
青がSAP GUI、赤がFioriである。

Fiori の検索数が SAP GUI を抜いたのは、2016年頃からである。この頃から、全世界のSAP関係者の関心は、SAP GUI よりも Fiori に向かっていることがわかる。その後は、一貫してFioriの方が検索数が多い。現在ではダブルスコアの差で Fiori が検索されているようである。
このグラフはFiori の普及率をそのまま示しているわけではないが、世界の人々が求めている情報は、SAP GUI よりも Fiori であることは確実と言える。
本家ドイツ、大国アメリカのトレンドは?
SAPのお膝元ドイツと、世界一の経済大国(おそらく世界一のSAP利用国)であるアメリカ合衆国のトレンドを見てみよう。
ドイツ

ドイツでの検索傾向は、「すべての国」とほぼ同じである。
アメリカ合衆国

グラフの形が「すべての国」やドイツと少し異なるが、Fiori の検索が SAP GUI を上回っているという傾向は同じである。
要するに、世界的なトレンドを見れば、どの国でも Fiori の方が SAP GUI よりも多く検索されている。
今日では、SAP GUI よりも Fiori に関する情報が求められているのは間違いなさそうだ。
日本はどうか?
日本では SAP GUI と Fiori、どちらが多く検索されているのだろうか?

Fiori がわずかに上回っているものの、検索トレンドは拮抗している。これは、他の国の傾向とは明らかに異なる。
日本では、SAP GUI は Fiori と同程度に検索されている。つまり、日本における SAP GUI の利用度は、諸外国よりも高い と考えられる。言い換えれば、日本での Fiori の利用率は、諸外国に比べて低いということだ。
SAP GUI と Fiori の二択ではなく、ハイブリッドという手もある。SAP GUI から Fioriアプリを起動する方法を紹介した記事は以下。

日本で SAP GUI が好まれる理由
では、なぜ日本における Fiori の人気は、諸外国と比べて相対的に低いのか?
あるいは、日本で SAP GUI の人気が根強い理由は何なのか?
理由は幾つか考えられる。また、その理由から、日本におけるITシステム導入の問題点が垣間見える。
言語・情報量の差
SAPに関する情報発信は英語が主流であり、最新の情報や事例もまず英語圏で公開されることが多い。そのため、英語圏や欧州では「Fiori」で検索すると、英語の豊富な情報を得ることができる。
一方、日本語にローカライズされたFioriの情報は限られている。そのため、「SAP Fiori」で検索しても十分な情報が得られないことが多い。これに対し、「SAP GUI」に関する日本語の情報はすでに豊富に存在し、検索すれば多くの情報を得ることができる。その結果、新しいキーワードである「SAP Fiori」での検索は控えられ、従来から馴染みのある「SAP GUI」での検索が多くなっている可能性がある。
基幹システム入替えサイクルの長期化
日本企業は諸外国と比べ、基幹システムの導入・更改サイクルが長いようだ。このサイクルの長さが、新技術に対する検索のモチベーションを下げているかもしれない。
BizzAppチャンネルの記事「日本企業のERP刷新と海外企業との違い」によれば、海外企業が現地法人や日本法人に対してERP刷新を行う場合、プロジェクト期間は3ヵ月~1年程度、大企業でも長くて2年程度に収まるという。一方、日本企業が国内に対してERP刷新を行う場合、構想2年・開発2年・テスト移行1年で合計5年がけのプロジェクトになるケースも少なくないとのこと。
なぜプロジェクトが長期化するかといえば、以下のような日本のビジネス習慣が大いに関係している。
- 現場の意見を重視:日本企業は現場の意見を尊重するため、既存の業務プロセスに合わせてシステムをカスタマイズ(アドオン)する傾向が強い。結果、開発量が増えてプロジェクト期間が長くなりやすい。
- 組織間調整の難しさ:「全体最適」の意識が高い日本企業は、部門間の調整に時間をかける。さらに、意思決定スピードの遅い組織では、調整時間は余分にかかる。
- IT投資への慎重さ: 長期的な回収計画を前提とした慎重な投資判断が行われる。ECCのサポート期限が迫っていても、実際の移行時期を後ろ倒しにする事例が散見される。
Fioriを導入しようとするのは、基幹システムを更新する時、すなわちECCからS/4HANAへの更新のタイミングであることが多い。システムの更新サイクルが長く、さらに移行時期を後ろ倒しにすればするほど、Fioriを検索する動機は薄れる。
日本のSIという習慣
日本ではシステムインテグレーター(SIer)やベンダーに、SAPシステム開発・運用を丸ごと委託する企業が多い。この日本のビジネス習慣が、Fiori の普及を妨げている可能性がある。
IPAの「DX白書2021」によれば、「SoR(System of Record)」(データを管理するためのERP・基幹系システムなど、従来型のITシステム)のシステムにおける開発手段の活用状況について、「内製による自社開発」を「活用している」「検討している」の回答は、米国の85.6%に対し、日本は45.7%である。これは言い換えれば、米国企業のほとんどはITシステムを自社開発するのに対し、日本は半数以上がSIerに外注しているということだ。
SIerは、ユーザーにとって利便性の高いシステムを提供したいと考えている。しかし同時に、「プロジェクトを失敗させてはならない」という意識も持っている。この意識はクライアント企業のそれよりも強い。なぜなら、プロジェクトに失敗すれば、クライアント企業から訴訟を起こされるリスクがあるからだ。一方で、自社開発であれば、プロジェクトが失敗しても自社が自社を訴えることはない。この違いは非常に大きい。
その結果、SIerは安全策を重視する傾向を強め、便利で新しい技術よりも、安定した既存の技術を採用したがる。リスク低減が最優先のSIerにとって、最新UIに関する情報の調査・検索の機会は必然的に少なくなるというわけだ。
他方、自社開発が主流の海外では、ITリテラシーの高い社内担当者やユーザー自身が、新しいUIであるFioriの導入メリットを積極的に調査し、推進する動きが強い。そのため、検索トレンドにもこの差が表れていると考えられる。
まとめ
Googleトレンドを使い、SAPシステムのユーザインターフェース(UI)のトレンドを調査した結果、以下のような傾向が明らかになった。
- 世界: Fiori は SAP GUI の2倍検索されている → Fiori が主流として使われている
- 日本: Fiori と SAP GUI の検索数はほぼ同じ → Fiori と SAP GUI は同等に使われている
このことは、SAP Fiori の利用に関して、日本は世界と比べて特異=消極的であることを示している。その背景には、日本固有のビジネス慣習やITプロジェクトの進行方法が影響している可能性が高い。
日本のITは、かつての携帯電話のようにガラパゴス化しつつあるのかもしれない。もし、日本独自の進め方が新技術導入の障壁となっているのであれば、それは改善すべき慣習である。変化を受け入れ、柔軟な体制を築かなければ、日本のIT技術力の低下を招き、ひいては国全体の競争力の衰退につながりかねない。
SAP UI のトレンドという一見小さなテーマから始まった本調査であるが、最終的には日本のITとその未来に関わる大きな課題にたどり着いてしまった。新技術を取り入れやすいプロジェクト推進のあり方を模索することこそが、これからの日本にとって必要な一歩であろう。
SAP GUI for Windows をもっと使いやすくする設定を集めた記事は以下。

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