SAPシステムにおけるユーザーインターフェース(UI)は、従来のSAP GUIからFioriアプリへと進化している。SAP S/4HANAの普及に伴い、Fioriの採用が進んでいるが、現場ではまだSAP GUIを利用するケースも多い。
本記事では、主にSAP GUI for Windowsを利用しつつ、必要に応じてFioriアプリも活用したいユーザー向けに、SAP GUI for WindowsからFioriアプリを起動する方法を、そのメリットとともに紹介する。
SAP GUI か Fiori か
SAPのユーザーインターフェースは二択ではない
SAP S/4HANAの普及に伴いFioriの採用が進んでいるが、現場では依然としてSAP GUIを利用するケースが多い。特に日本ではSAP GUIの利用率が高い傾向がある(この点については別の記事で詳しく解説する)。
SAP GUI を手放せない理由はシンプルだ。現時点において、SAP GUIのT-CODE(標準トランザクション)で実行できるすべての機能がFioriに搭載されていないからである。企業や業務にもよるが、Fioriだけでは業務が完結しないケースがあるのだ。
そのため、SAP GUIとFioriのどちらかを選ぶのではなく、両方を併用する必要がある。重要なのは、どちらのUIを主に使用するかという見極めだ。アプリケーションを使用する際、
- T-CODEの使用頻度が高い場合はSAP GUI
- Fioriアプリの利用が多い場合はFioriラウンチパッド
をラウンチャー(起動ソフト)として採用するのが自然だろう。
パフォーマンス優先ならSAP GUI
Fioriアプリの動作速度は、SAP GUI for Windowsと比べると遅い。 これはFioriが劣っているわけではなく、アプリケーションのアーキテクチャの違いによるものだ。
SAP GUI for Windowsは、「Windowsネイティブアプリケーション」として開発されており、Windows上で直接動作する。そのため、Windows環境に最適化されており、高いパフォーマンスを発揮できる。
一方、Fioriは「Webアプリケーション」であり、Webブラウザを介して動作する。そのため、SAP GUI for Windowsに比べてアプリケーションの階層が増え、構造上の不利が生じる。さらに、Fioriは「モバイルアプリケーション」としても設計されており、Windowsだけでなく、iPhoneやiPad、Androidなど多様なデバイスで動作する。特定の環境に最適化するのは難しく、Windowsネイティブアプリケーションと比べると、どうしてもパフォーマンスは劣る。
そのため、伝票入力を素早く行いたい場合など、動作速度を重視するユーザーは、FioriよりもSAP GUIを優先的に利用することになる。
SAP GUI から Fioriアプリを起動するメリット
SAP GUI から Fioriアプリを起動できるようにしておくと、以下のようなメリットがある。
1. シームレスな移行が可能
SAP GUI をメインに使いながら、少しずつFioriに慣れることができる。完全にFioriに移行する前に、ハイブリッドな環境でスムーズに業務を継続できる。
2. ユーザーの利便性向上
従来のSAP GUI ベースの業務と、Fioriのモダンなインターフェースを組み合わせて使用できるため、業務プロセスの最適化が可能。特にデータの可視化や分析に強いFioriアプリを活用することで、意思決定のスピードが向上する。
3. パフォーマンス優先の環境
「パフォーマンス優先ならSAP GUI」で述べたように、伝票入力を主な業務とするユーザーには、パフォーマンスに優れるSAP GUIを中心としたユーザーインターフェースが最適である。登録系の業務は動作の速いトランザクション(T-CODE)で固め、照会系の業務はビジュアルに優れるFioriアプリを幾つか配置しておく。
SAP GUI からFioriアプリを起動する方法
SAP GUI からFioriアプリを開く方法を、以下に紹介する。
1. SAP GUI からFioriラウンチパッドを開く
SAP GUI からFioriラウンチパッドを開き、Fioriラウンチパッド上のFioriアプリを起動する。
Fioriランチパッドを開くトランザクションは「/UI2/FLP」である。
ログイン中の SAP GUI のコマンドフィールドに以下のように入力して[Enter]を押す。
/n/UI2/FLP
このトランザクションによって、WebブラウザとともにFioriラウンチパッドが起動する。
Fioriラウンチパッドにログインしていなかった場合は、ログイン画面が表示される。
トランザクション「/UI2/FLP」でFioriラウンチパッドを開くメリットは、ログイン中のSAP GUI の、クライアント番号と言語が、起動用のURLに渡されるという点である。このため、ユーザーがログイン先のクライアント番号を間違える心配がない。
Fioriラウンチパッドが開いた後は、以下のいずれかの方法でFioriアプリを起動する。
- タイルから目的のアプリを起動
- Fioriラウンチパッドの上部にある「検索バー」でアプリ名を入力し、目的のアプリを見つけて起動
2. ユーザー定義メニューからFioriアプリを起動する
Fioriアプリを開くURLを、ユーザー定義メニューにショートカットとして登録し、そのショートカットからFioriアプリを開く。
SAP GUI のユーザ定義メニューには、トランザクションコード(T-CODE)を登録するのが一般的であるが、メニューにはURLも登録することができる。手順は以下。
- SAP GUI のメニュー画面の左上にある「ユーザ定義」上で右クリックし、「他のオブジェクトを追加」を選択する。
- リストが表示されるので、「Webアドレス/ファイル」を選択する。
- 「テキスト」に任意のアプリ名を入力し、「Webアドレス/ファイル」に、目的のFioriアプリを起動するURLを入力する。
- 「コピー」ボタンを押し、「ユーザ定義メニュー」に登録したアプリ名が表示されていることを確認する。
Fioriアプリを起動するURLの作成方法は、以下の記事で紹介しているので参考にしてほしい。
3. 汎用モジュール ’CALL_BROWSER’ を使う
汎用モジュール ’CALL_BROWSER’ を使い、FioriアプリをURL指定で起動するABAPプログラムを作成する。そのプログラムを起動すれば、Fioriアプリが起動する。
’CALL_BROWSER’ は、URLを指定して標準Webブラウザを起動する汎用モジュールだ。この汎用モジュールを呼び出すABAPプログラムを作成し、そのプログラムを起動することでFioriアプリを起動する。インポートパラメータに指定するURLの作成方法は、以下の記事を参照してほしい。
作成した ABAP プログラムは、T-CODE: SE93 を使用してトランザクションとして登録しておくことで、トランザクションコードを実行し、目的の Fiori アプリを起動できる。
また、トランザクションコードとして登録することで、ユーザーロールへの割り当てや、ユーザーロールによる権限制御も可能となる。
まとめ
本記事では、SAP GUI からFioriアプリを起動するメリットや具体的な手順を紹介した。
SAP S/4HANAの普及に伴い、Fioriの利用は今後さらに拡大するだろう。しかし、SAP GUI は依然として重要な役割を果たしており、両者を適切に活用することで業務の効率化が可能となる。本記事の内容を参考に、SAP GUI とFioriの連携を最適化し、業務の生産性向上を図ってほしい。
Fioriアプリを一括で登録したいなら、Fioriアプリの一覧表をダウンロードしておくのが効率的。T-CODEに対応するFioriアプリの検索方法や、Fioriアプリの一覧表をダウンロードする方法を紹介した記事は以下。

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