SAP導入プロジェクトにおいて、エンドユーザにとって難解なSAP用語集を作成することは非常に重要である。
特にSAPは専門用語が多く、新たに導入される企業の従業員や関係者にとっては、用語の理解がプロジェクト成功の鍵を握っているといっても過言ではない。
本記事では、生成AIを活用したSAP用語集の効率的な作成方法について紹介し、時短と品質向上を実現するためのプロンプト活用法を解説する。
SAP用語集の重要性
SAP導入プロジェクトでは、関係者が共通の言語を持つことが成功への第一歩である。特に専門用語が多いSAPシステムでは、以下の理由から用語集の作成が必要不可欠である。
プロジェクトの成功に欠かせないコミュニケーション
SAP導入プロジェクトでは、開発者、コンサルタント、エンドユーザが協力して作業を進める必要がある。共通の用語を理解し合うことで、スムーズなコミュニケーションが実現し、プロジェクトの進行が円滑になる。
エンドユーザの学習促進
エンドユーザにとって、新しいシステムやプロセスの習得は大きな負担となる。SAP用語集を用意することで、エンドユーザの学習をサポートし、システムの受け入れを促進することができる。
SAP用語集を生成AIで作成するメリット
従来のSAP用語集を作成するプロセスは、SAPコンサルタントという専門知識を持つ人々が集まって、用語の定義を考えることが必要だった。
しかし、生成AIを活用することで、多くの利点がある。
時間とコストの削減
生成AIを使えば、複数のSAP用語の解説を瞬時に作成することが可能である。例えば、「SAP HANA」や「ABAP」などの専門用語について、詳細な解説を自動で生成できる。これにより、従来の方法に比べて時間とコストを大幅に削減することができる。
多言語対応と言い換えの柔軟性
生成AIは、英語での言い換えや一般用語での言い換えが可能である。これにより、エンドユーザがより理解しやすい形で用語を提供できる。また、多言語対応も容易に実現できるため、グローバルなプロジェクトでも有効である。
用語の重要度を定量的に示す
生成AIは、用語の重要度を定量的に示すことができる。例えば、用語の使用頻度やプロジェクト内での重要性をスコア化することで、エンドユーザがどの用語を優先して学ぶべきかを判断する手助けになる。
SAP用語集を生成AIで作成するためのプロンプト
この記事では、次の2種類のSAP用語集(用語の解説集)の自動作成を行う、生成AI用プロンプト(命令文)を紹介する。
出力形式は、Excelなどスプレッドシートでの編集を考慮して、表形式である。出力形式はプロンプトの中で指示しているので、変えることは可能だ。
なお、生成AIのプロンプトの書き方や、コツを解説した記事は以下。
SAP用語集① ユーザが選出したSAP用語
使える場面
エンドユーザにSAPシステムを説明した後、「あのSAP言葉の意味は?」と質問されることはよくある。そんな時は、SAP用語集を作っておくと役に立つ。他のエンドユーザも、同じ質問をしてくる可能性が高いからだ。
エンドユーザが質問してきたSAP用語が対象なので、SAP用語はユーザ(自分)で指定する。
プロンプトのサンプル
# 依頼 あなたは{#役割}です。現在、{#背景}のような背景があり、SAPシステムの用語集を作成しようとしています。次の{#ルール}を必ず守り、{#SAP用語}の値を読み取って、その値の解説を{#形式}の形式で出力してください。 # 役割 SAPシステムのコンサルタント # 背景 -これからSAP社のS/4HANA、すなわちERPシステムを導入することが決まっている。 -この用語集を見る読者は、ERPシステムの初心者。したがって、初心者向けの丁寧で解りやすい解説がほしい。 # 形式 -表形式 -列は「SAP用語」「SAP Terminology」「一般用語」「解説」「重要度」 # ルール -{#評価}の方法で評価し、「重要度」として出力する。 -「SAP Terminology」はSAPシステムの中で使われている英語。 -「解説」は当該のSAP用語の、SAPシステムの中での意味、役割、使われ方など。 -「一般用語」は「SAP用語」を、世間一般の言葉で言い換える。 -「重要度」は「★」印で表現する。 -SAP用語に「マスタ」と付く用語の解説を「データベース」と表現するのは禁止。 -結果は日本語で表示する。 -回答は{#形式}で指定された結果のみを出力すること。 -回答に「説明します」「表示します」のような、説明や注釈は不要。 -結果の重複や繰り返しは不要。 # 評価 -当該のSAP用語が使われる、またはSAPシステムを制御するために重要な役割を果たすランクを、5段階で評価。 # SAP用語 会社コード 販売組織 流通チャネル 製品部門 営業所 購買組織 プラント
プロンプトの解説
- 「#背景」は不要かもしれないが、背景を考慮したSAP用語の解説をしてくれるかもしれないので、指定した。
- 出力列
- SAP Terminology: SAP用語の英語訳
- 一般用語: そのSAP用語を、世間一般で使われている言葉に置き換える
- 解説:その SAP用語の解説
- 重要度: そのSAP用語が出現する頻度、またはSAPシステムにとっての重要度の評価
- 独特なSAP用語を、誰もが知っていそうな「一般用語」で言い換えることができれば、相手は理解しやすいはず。「#ルール」内では「世間一般の言葉で」と指定しているが、顧客の業種・業界が明らかなら、「〇〇業界の言葉」とすると、より相手に理解しやすい言葉に置き換えてくれる確率が上がる。
- 「重要度」は、そのSAP用語の出現する頻度、またはSAPシステムにとっての重要度を、5段階で評価。某ECサイトのレビューのような「★」印で表示する。
出力結果の例
ChatGPT 4
- 一般用語
-
置き換えられた言葉は、どれも解りやすい。特に、「流通チャネル」は「流通経路」の方が、一般人には理解しやすい気がするのでGood。
- 解説
-
簡潔で無駄のない文章。解りやすい。
- 重要度
-
- 「購買組織」の方が「販売組織」よりも高い。どちらも同じレベルだと思うのだが、ChatGPT 4 は販売よりも購買重要なのだろうか?
- 「会社コード」と「プラント」で差をつけた理由が、ちょっと解らない。どちらもERPにとって最重要といえる組織。強いていうなら、トランザクションコードでは「プラント」を入力させる画面が多いからか?
Gemini
- 一般用語
-
- ChatGPT と比較すると、全般的に日本語で統一しようとする傾向がある。
- 「会社コード」を「会社区分」と言い換えるのは、ちょっと残念な感じ。それ以外の言い換えは悪くない。
- 解説
-
- ChatGPT 4よりも簡潔。簡潔過ぎて、この文章でエンドユーザが理解できるかどうか。
- 用語集の目的にとって、この「解説」が最も重要だが、簡潔過ぎて用語集の目的を果たせない可能性がある。
- 重要度
-
- ChatGPT 4と、ほぼ同じ結果となった。
- ChatGPT 4では、「購買組織」と「販売組織」の重要度は異なっていたが、Geminiでは同レベルとしており、この点はChatGPT 4よりも評価できる。
SAP用語集② AIが重要だと判断して選出したSAP用語
用語集に載せるSAP用語を、人ではなく、生成AIが判断して選出する。
人であれば、経験則で各項目の重要性を理解しているが、経験の浅いSAPコンサルタントにとって、どの項目がどのくらい重要なのかを判断するのは難しい。しかし、生成AIは経験の不利をカバーできる。また、項目の重要性について、偏見が混じることも、生成AIなら防げる。
サンプルのプロンプトでは、範囲を絞るため、SAPシステムの画面名=T-CODE を与えてある。生成AIは、画面項目の中から、重要と考えられる項目を抽出する。
生成AIは、どのSAP用語を「重要」と認識しているのか?
下のプロンプトは、それを知る実験にもなる!
使える場面
エンドユーザにSAPシステムの画面(T-CODE)を説明する際の、前準備として。
SAPシステムの画面上の項目は無数にあるが、本当に重要な、エンドユーザに覚えてほしい項目というのは、それほど多くないはずである。その「重要な」項目を、生成AIに判断してもらう。
自分が指定するSAP用語 + 生成AIが集めてくるSAP用語 のミックスで、充実したSAP用語集が作れるだろう。
プロンプトのサンプル
#依頼 あなたは{#役割}です。現在、{#背景}のような背景があり、SAPシステムの用語集を作成しようとしています。 {#T-CODE}のトランザクションコードの項目のうち、重要だと考えられる項目を{#用語数}選抜し、{#形式}の形式で出力してください。 {#ルール}は必ず守ってください。 #役割 SAPシステムのコンサルタント #背景 -これからSAP社のS/4HANA、すなわちERPシステムを導入することが決まっている。 -この用語集を見る読者は、ERPシステムの初心者。したがって、初心者向けの丁寧で解りやすい解説がほしい。 #用語数 一つのT-CODEにつき4個 #形式 -表形式 -列は「T-CODE」「画面項目名」「画面項目名(英語)」「一般用語」「解説」 #ルール -「画面項目名」はT-CODEの中に出現する画面項目の項目名。 -「解説」は当該の項目の、SAPシステムの中での意味、役割、使われ方など。 -「一般用語」は画面項目名=「SAP用語」を、世間一般の言葉で言い換える。 -結果は日本語で表示する。 -回答は{#形式}で指定された結果のみを出力すること。 -回答に「説明します」「表示します」のような、説明や注釈は不要。 -結果の重複や繰り返しは不要。 #T-CODE MM01 VA01 ME21N FB01L
プロンプトの解説
- 例として載せるため、出力される用語の数を「#用語数」で制限している。
実際に使う際は、「#用語数」は除外しても構わない。 - SAPシステムの画面(T-CODE)は、「#T-CODE」で指定。
- それ以外は「ユーザが指定したSAP用語の用語集」のプロンプトと同じ。
出力結果の例
ChatGPT 4
T-CODE | 画面項目名 | 画面項目名(英語) | 一般用語 | 解説 |
---|---|---|---|---|
MM01 | 材料番号 | Material Number | 商品番号 | 材料または商品の一意の識別子。材料マスタを作成する際に割り当てられる。 |
MM01 | 説明 | Description | 説明文 | 材料の詳細情報や仕様を説明するためのテキストフィールド。 |
MM01 | 基本単位 | Base Unit of Measure | 基本単位 | 材料の数量を計測する際の基準となる単位(例:個、キログラム)。 |
MM01 | 種類/業務形態 | Material Type | 種類 | 材料の分類を示し、管理や処理方法を決定するためのカテゴリ。 |
VA01 | 受注番号 | Sales Order Number | 注文番号 | 顧客からの受注を一意に識別する番号。 |
VA01 | 顧客番号 | Customer Number | 顧客ID | 注文を行った顧客を識別するための一意の番号。 |
VA01 | 注文日 | Order Date | 注文日 | 受注が発行された日付。 |
VA01 | 支払条件 | Payment Terms | 支払条件 | 受注に対する支払い条件を指定する項目。 |
ME21N | 発注番号 | Purchase Order Number | 注文番号 | 発注書を一意に識別する番号。 |
ME21N | 供給業者番号 | Vendor Number | 供給業者ID | 商品やサービスを供給する業者を識別するための番号。 |
ME21N | 発注日 | Order Date | 注文日 | 発注書が発行された日付。 |
ME21N | 商品コード | Material Code | 商品番号 | 発注する商品の一意の識別子。 |
FB01L | 伝票番号 | Document Number | 伝票番号 | 財務会計の取引を一意に識別するための番号。 |
FB01L | 会計年度 | Fiscal Year | 会計年度 | 取引が記録される会計年度。 |
FB01L | 勘定科目 | General Ledger Account | 勘定科目 | 取引が記録される会計の科目。 |
FB01L | 金額 | Amount | 金額 | 取引の金額。 |
- 画面項目名
-
- 日本語の画面項目名が、少し正しくない。
「材料番号」「種類/業務形態」など、実際の画面には出てこない。この理由はおそらく、生成AIが持っているトレーニングデータは英語のみで、日本語の項目名は、英語の項目名を和訳しているからだと思われる。
その証拠に、「種類/業務形態」の英語項目名は「Material Type(品目タイプ)」となっており、正しい。 - 日本語の画面項目名が、実際の画面項目名と一致しないので、このままでは使えない。手直しが必要。
ただし、一からSAP用語集を作るより、はるかに生産性は良い。
- 日本語の画面項目名が、少し正しくない。
- 解説
-
- 英語の画面項目名が正しいので、解説の内容も正しい。
- 「基本単位」(実際の画面では「基本数量単位」)については、「(例:個、キログラム)」と、具体例を表示して解りやすくする工夫が見られる。これは高評価。
- 重要な項目を抽出できたか?
-
できている
- MM01=品目マスタ登録画面を見ると、”Material Number”などのキー項目を中心に抽出されている。確かに、キー項目は、画面上の重要な項目と言える。
- 他のT-CODEも同様で、VA01なら「受注番号」を選択するなど、キー項目を中心に、画面項目を列挙している。これら抽出された項目は、SAPコンサルタントから見ても、重要な項目である。
つまり、ChatGPT 4における「重要な項目」に対する認知は間違っていない。
Gemini
T-CODE | 画面項目名 | 画面項目名(英語) | 一般用語 | 解説 |
---|---|---|---|---|
MM01 | 物資 | Material | 商品、品目 | 企業で扱うすべての製品や原材料のことです。 |
MM01 | 品目グループ | Material Group | 品目グループ | 物資を種類別に分類するためのグループです。 |
MM01 | 基本単位 | Base Unit of Measure | 基本単位 | 物資を数える際の基本となる単位です。 |
MM01 | 販売組織 | Sales Organization | 販売組織 | 製品を販売する組織のことです。 |
VA01 | 売掛先 | Sold-to Party | 売掛先 | 商品を販売する相手先(顧客)のことです。 |
VA01 | 数量 | Quantity | 数量 | 販売する商品の数量です。 |
VA01 | 価額 | Value | 価額 | 商品の価格です。 |
VA01 | 納期 | Delivery Date | 納期 | 商品を納品する予定日です。 |
ME21N | 業者 | Vendor | 仕入先 | 物品を仕入れる相手先(仕入先)のことです。 |
ME21N | 数量 | Quantity | 数量 | 購入する商品の数量です。 |
ME21N | 価額 | Value | 価額 | 商品の価格です。 |
ME21N | 納期 | Delivery Date | 納期 | 商品を納品してもらう予定日です。 |
FB01L | 会計伝票番号 | Document Number | 会計伝票番号 | 会計処理の際に発行される番号です。 |
FB01L | 業者 | Vendor | 仕入先 | 支払う相手先(仕入先)のことです。 |
FB01L | 支払金額 | Amount | 支払金額 | 支払う金額です。 |
FB01L | 支払期日 | Due Date | 支払期日 | 支払期限です。 |
- 画面項目名
-
- MM01(品目マスタ登録)のキー項目といえば「品目コード」だが、いきなり「物質(Materil)」という、英語名でも正しくない項目を挙げてきた。
- さらに、MM01に「購買組織」は存在しないので、この時点でGeminiはボロが出てしまっている。
- 解説
-
- 「これだけ?」という印象。あっさりし過ぎでは?
- SAP用語集なので、「SAPシステムにおける用語の解説」が期待されるが、SAPシステムとは無関係な、一般論の説明となっている。簡潔な文は悪くないが、ここまで単純だと、賛否が分かれそう。
- 重要な項目を抽出できたか?
-
できていない
- MM01の重要項目として「品目グループ」を挙げているが、キー項目ではない。「品目グループ」が重要項目なのは否定しないが、「品目タイプ」など、キー項目を先に挙げてほしかった。
- VA01(受注伝票登録)、ME21N(購買発注登録)ともに、「金額」「価額(価格)」「納期」を挙げている。
確かに、重要な項目には違いないが、そこじゃあない!
左記の三つの項目は、社会人なら誰でも知っている言葉。作成しようとしているのは「SAP用語集」なんだから、普通の用語ではなく、「SAP用語」を抽出してほしかった。
まとめ:SAP用語集は生成AIを使って自動作成しよう
SAPシステムの用語集の作成能力について、各生成AIの評価(筆者の主観)を下表に纏めておく。
評価項目 | ChatGPT 4 | Gemini |
一般用語への言い換え | ★★★ | ★★☆ |
説明の正しさ・わかり易さ・例示 | ★★★ | ★☆☆ |
用語の重要性の認識 | ★★☆ | ★☆☆ |
- ChatGPT 4
-
- SAPシステムをよく理解しているようで、SAP用語の説明はどれも正しく、解りやすい。
- 個々のSAP用語の重要度も、認識できているよう。
- 項目の日本語名は、実際の画面の項目名と一致していない場合があり、少々手直しが必要。
- Gemini
-
- 説明がシンプル過ぎて、用語集の体裁にならない。
- そもそもSAPシステムというものを知らないのか、各SAP用語の重要性を認識できていない。
SAP用語集の作成において、生成AIの活用は非常に効果的である。
特に、SAP用語の複雑さを考慮すると、生成AIの利用は時短になるだけでなく、他の言語への言い換えや、重要度の評価など、人間とは比べものにならない付加価値と生産性を発揮する。
以上より、ChatGPT によるSAP用語の用語集作成を、筆者は強くおすすめする。
本記事で紹介したプロンプトと生成AIが、SAP用語集作成の生産性向上に役立てば幸いである。
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