要件定義は難しい!【未経験者】は生成AIで質問リストを作成すべし

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SAPコンサルタントとして、プロジェクトの成功に欠かせないスキルの一つが「要件定義」である。

顧客のニーズを正確に把握し、具体的な仕様に落とし込むことは、上流工程の成否を左右する重要な要素だ。しかし、要件定義の経験が浅い初心者にとっては、どのようにして顧客の真のニーズを引き出すか、悩みの種となることも多いだろう。

そこで注目すべきなのが、生成AIの活用である。生成AIを駆使することで、顧客の課題やニーズを的確に探り出すための質問リスト、つまりヒヤリングシートを効率的に作成することが可能だ。

生成AIは質の高い質問を瞬時に複数作成してくれるため、要件定義の準備にかかる時間を大幅に短縮するだけでなく、上流工程の成功率を高めることにもつながる

生成AIは、経験の浅いコンサルタントにとって、頼れる助手となるだろう。また、ベテランのコンサルタントにとっては、思いもつかなかった質問との出会いが、新たな視点を与えてくれるだろう。

是非、この記事で紹介するプロンプトと一緒に生成AIを活用し、要件定義のプロセスを強化してほしい。

この記事は、要件定義の重要性と難しさについて解説し、要件定義において顧客のニーズを聞き出すのに欠かせない「質問リスト」を、生成Aを使って作成する方法をプロンプト(命令文)とともにを紹介する。

目次

要件定義は重要だが難しい

SAPシステム導入プロジェクトに限らないが、要件定義はプロジェクトの中で、最も重要な工程の一つである。

要件定義を疎かにすると、プロジェクトの運用試験の段階で機能不足や、機能の齟齬が発覚し、最悪の場合、システム全体の見直しを余儀なくされることもある。

では、なぜ要件定義はこれほど重要であり、かつ難しいのか?

要件定義の重要性

要件定義とは、顧客のニーズを正確に聞き出し、文書化する作業である。これはシステム設計のインプットとなる情報であり、完成させるシステムの基盤となるものなので、これがしっかりしていないと、プロジェクト全体の成功が危ぶまれる。

要件定義を適切に行わなければ、システムが顧客の期待を満たさず、追加の時間とコストが発生する可能性が高い。

機能不足や機能齟齬のリスク

要件定義を正しく行わなければ、ユーザー受入試験や運用試験の段階で、システムが期待した機能を提供できないことが明らかになるケースがある。

例えば、ユーザーが特定の機能を期待していたにもかかわらず、それがシステムに組み込まれていない、あるいは異なる動作をすることが判明してしまうケースだ。これにより、追加の開発が必要となり、プロジェクトのスケジュールや予算が大幅に狂ってしまうリスクがある。

要件定義に求められるスキル

要件定義を正確に行うためには、顧客への質問の質と量が非常に重要である。

ここでの質問とは、顧客の業務プロセス、業界特有の要件、システムに対する期待値などを、詳細に把握するためのものである。これらの情報を的確に引き出すことが、要件定義の成功につながる。

以下は、コンサルタントやエンジニアに求められる、要件定義に必要なスキルである。

業界・業種の知識

業界・業種の知識を持っていることは、要件定義を成功させるための大きな利点となる。顧客の業務プロセスや市場動向を理解していれば、より具体的かつ効果的な質問が可能となり、顧客の潜在的なニーズを引き出すことができる。

質問力

要件定義において、顧客に対する質問の質と量がプロジェクトの成否を左右する。適切な質問をすることで、顧客の本当のニーズを引き出し、システムに必要な要件を漏れなく洗い出すことができる。しかし、この質問力を身に付けるためには、業界・業種に関する深い知識と理解が求められる。

要件定義には顧客の協力が欠かせない

要件定義とは、ベンダが顧客から要求を聞き出す作業であるが、ベンダが全ての責任を負うのは間違っている。

そこはコミュニケーションであるから、ベンダの力量だけでなく、顧客の協力というものが欠かせない。

以下のIPA(情報処理推進機構)の資料は、要件定義を成功させるための、非常によく書かれた資料である。

超上流から攻める IT 化の原理原則 17ヶ条

ベンダと顧客の双方にとって、重要且つ普遍の原理原則が書かれており、要件定義で苦労した者であれば、内容は胸に刺さるものばかりだ。特に経験の浅いコンサルタントは、要件定義に入る前に読んでおくことを強くおすすめする。

要件定義には顧客の協力が欠かせない。むしろ、顧客が自分たちの要件をベンダに伝えきることが大事なので、顧客にこそ、読んでもらいたい資料である。

要件定義の難しさ

初心者のSAPコンサルタントは、SAPシステムの知識は持っていても、顧客の業界を知らないことが多い。要件定義は顧客のニーズを聞き出す作業であるから、SAPシステムの知識よりも、顧客の業界やビジネスに関する知識を持っておくことが重要である。

要件定義は、特に経験の浅いコンサルタントにとって難しい工程だ。これは、彼らがまだ業界の専門知識や質問力を、十分に持ち合わせていないことが原因である。

しかし、これを補う手段として、生成AIを活用するという方法がある。

生成AIで経験不足はカバーできる

要件定義に必要なスキルを備えるためには、多くの学習と経験が必要である。経験の浅いコンサルタントにとっては、ハードルが高いと感じることだろう。

しかし、生成AIを活用すれば、知識と経験の不足を埋めることは可能だ。

経験の浅いコンサルタントやプロジェクトチームにとって、生成AIは強力なサポートツールとなるだろう。

生成AIを要件定義に活用することの、具体的なメリットをいくつか挙げてみよう。

生成AIを要件定義に活用するメリット

1. 経験不足を補う

生成AIは、経験の浅いコンサルタントが直面する課題を軽減する。

生成AIは、膨大なデータベースと過去のプロジェクトデータを持っている。初心者のコンサルタントは、要件定義で発生する課題や疑問を、生成AIに問い合わせることで、的確な答えを得ることができる。生成AIは、過去のプロジェクトで有効だった質問や方法論を提案し、重要なポイントを見逃さないようにサポートする。これにより、初心者でも高品質な要件定義を行うことが可能になる。

2. 質問リストの作成時間を短縮

要件定義のプロセスで時間を要するのが、適切な質問リストの作成だ。

生成AIは、顧客の業種や業界特有の要件に沿った的確な質問を、幾らでも生成してくれる。これにより、質問リスト作成にかかる時間を大幅に短縮し、効率的なプロジェクト推進が可能になる。

3. 質問の質を向上

生成AIは、複雑な業界知識を基にした高度な質問を生成することができる。生成AIが作成する質問は、一般的なものだけでなく、業界特有の専門的な知識を反映したものも含まれる。これにより、顧客の潜在的なニーズや課題を深く掘り下げることができ、要件定義の質を向上させる。

また、人間が質問リストを作成する場合、質問の数が少なかったり、特定のトピックに偏ったりすることがあるため、顧客の要求を聞き損ねる恐れがある。しかし、生成AIは大量の質問を作り出せるので、質問の網羅性を高め、「聞き取り不足」を防ぐのにも役立つ。

4. 言語の壁を越える

多国籍企業やグローバルプロジェクトにおいては、異なる言語でのコミュニケーションが必要だ。生成AIは多言語に対応しているので、要件定義の質問を多言語で作成することが可能である。

5. ソリューションの提案

生成AIは質問を作成するだけでなく、質問に対する回答を予想することもできる。さらに、予想される回答から、顧客のニーズに応じたソリューションを提案することも可能だ。

自分たちだけでは思いつかないようなソリューションやアイデアを生成AIは提案してくれるので、顧客満足度とプロジェクトの成功率を高めることが可能である。

生成AIで質問リストを作成する

それでは、要件を聞き出すための「質問リスト」を生成AIに作成させるためのプロンプトを紹介していく。

以下に紹介するプロントは、次の特長を備えている。

プロンプトの特長
  • 業界・業種を指定できる
  • 質問の優先順位を決める
  • 質問に対する顧客の回答を予想する

業界・業種を指定できる

当たり前だが、顧客への質問は「顧客の業務における課題」を聞き出す必要がある。

したがって、顧客への質問は、顧客の業界・業種に関係するものでなくては意味がない。さもなくば、顧客の業務とは無関係なトンチンカンな質問をして、顧客を怒らせることになりかねない。

そうならないよう、このプロンプトでは顧客の業種・業界を指定している。

業界・業種を指定することで、その分野に精通したコンサルタント(AI)を召喚するのだ。

質問の優先順位を決める

要件定義に費やすことのできる時間は無限ではない。プロジェクトの決められたスケジュール内に、要領よく質問を重ねなければならない。

生成AIは無尽蔵に質問を生成できるが、実際の要件定義では議論が白熱するなどして、全ての質問を消化できない場合がある。

つまり、時間内に、必ずしなければならない質問、省略しても影響が小さい質問 というように、質問には優先順位を設定して臨む必要がある。

「どの質問からするか?」で迷わないよう、プロンプトでは質問すべき優先順位を、3段階(必須は1)で表示するよう指示している。

質問に対する回答を予想する

質問を作成するだけでなく、

「顧客はおそらく、こう答えるだろう」

という予想回答まで作成する。

顧客の回答を予想しておけば、その回答に対するソリューションを、予め準備しておくことができる。所謂「想定問答集」を用意しておくことで、要件定義を落ち着いて進めることができる。

サンプルプロンプト

以下のサンプルプロンプトは、後述の「プロンプトの解説」を参照しながら、適宜変更を加えてほしい。

# 依頼
あなたは{#役割}です。現在、SAP社のS/4HANA(ERPシステム)を導入するプロジェクトに参画しており、システム設計のための「要件定義」を開始しようとしています。
要件定義のための質問リスト(ヒヤリングシート)を作成したいので、{#背景}にある背景を踏まえ、顧客への質問と、その回答予想を{#形式}の形式で出力してください。
顧客の業界と業種は{#業界}です。その業界に相応しい、顧客のニーズを聞き出す質問を考えてください。
質問する業務領域は{#業務}です。
{#ルール}は必ず守ってください。

# 役割
-ビジネスアナリスト
-SAPシステムのコンサルタント

# 背景
-顧客のビジネスは「受注生産」または「受注設計生産」が主である。
-顧客にとっての「受注設計生産」とは、所謂プロジェクト管理のことである。
-顧客は自社のプロジェクト管理を「製番」という単位で管理している。
-あなたは顧客が製造・販売している製品は知っているが、顧客特有の製造プロセスについては知らない。

# 形式
-表形式
-列は「質問番号」「質問タイトル」「質問内容」「予想回答」「質問の優先度」

# 業界・業種
工作機械製造業

# 業務
-生産計画
-内示を受ける

# ルール
-顧客はSAPシステムおよびERPの初心者なので、質問にSAPシステムやERPに関する専門用語を使ってはならない。
-業務を具体的に聞き出すため、定量的な回答を引き出すような質問をすること。定量的とは、たとえば、数字、日付、日数、頻度など。
-質問は5個挙げる。
-「質問の優先度」は、システム設計において重要、且つ優先度の高さを{#評価}で評価する。
-「質問の優先度」は「★」マークで表記する。最高は「★★★」となる。
-顧客に対する二人称は「貴社」とする。
-「予想解答」は、顧客の回答を予想し、顧客になったつもりで回答する。
-「予想解答」のテキストに鉤括弧はつけない。
-回答は{#形式}で指定した形式のみを出力する。

# 評価
-質問すべき優先度を3段階で評価する。

プロンプトの解説

プロンプトの「書き方の基本」については、以下の記事で解説しているので、参考にしてほしい。

以下は、各ブロックの記述内容の解説である。

#役割

生成AIの役割、すなわち、何の分野の専門家なのかを指定する。

専門分野を指定することによって、生成AIが「その道のプロ」のように思考し、発言するようになる。したがって、この役割の指定は重要である。

このサンプルでは、システム機能要件を聞き出すために「ビジネスアナリスト」と、SAPシステム(S/4HANA)の導入プロジェクトを想定して「SAPコンサルタント」の、二つの役割を指定している。

#背景

プロジェクトの「前提」や「目的」、ヒヤリング担当者(=生成AI)の置かれている状況、ヒヤリングで考慮すべきポイントなど、把握できている範囲で、プロジェクトや顧客についての情報を列挙する。

質の高いアウトプットを得るためには、質の高いインプットが欠かせない。できるだけ詳しく正確に書く。

#形式

このサンプルでは、質問リストをExcelなどのスプレッドシートに貼り付けるため、「表形式」としている。
(カンマ区切りテキストで出力したければ、「CSV」とする)

また、質問リストを表形式で表すための、表の項目(列)の見出しも定義している。

#業界・業種

質問の対象者である顧客の、業界や業種を指定する。

「役割」同様、こちらも重要である。まったくの異業種を指定してしまうと、出力される質問がトンチンカンなものとなってしまうので、正確、且つ細かく業種・業界を指定する。

たとえば、精密機械製造業であれば「製造業」とだけ書くよりも、「精密機械製造業」、さらに「〇〇精密機械製造業」と細かく書く方が、業界特有の質問を生成しやすい。

#業務

顧客の業務プロセスを掘り下げるため、「受注」や「出荷」といった、顧客の「業務」名を指定する。

業務を指定することで、その業務を深く掘り下げることが可能にある。つまり、顧客の業務にフォーカスした質問を大量に作り出すことで、「質問不足」に起因するシステム設計への情報不足を防ぐのである。

#ルール

質問リストを整えるための、各種条件を指示する。

このサンプルでは、以下の条件を指定している。他にも条件がある場合は、このセクションに追記して指示する。

  • 質問をする相手は、SAPシステムやERPの初心者なので、専門用語を使わないよう指示。
  • 具体的で定量的な回答を引き出すための指示。
    具体的なものには、たいてい数量や日付などの「数字」が含まれる。したがって、定量的な回答を引き出すような質問を投げかければ、その回答には数字が入り、具体的になりやすいためである。
  • 質問の数の指示(サンプルでは5個)。
  • 「質問の優先度」の表記方法。このサンプルでは、某ECサイトのように「★」で表している。「質問の優先度」の評価方法は、後述の{#評価}を引用するように指示。
  • 顧客の企業を「貴社」と呼ぶよう、二人称の指示。
  • 顧客が答えそうな「予想回答」をさせるための指示。
  • AIが妙な気を利かせて、回答に不要な補足や修飾を付け加える場合がある。それを防ぐため、出力する内容を限定するための指示。

出力結果の例

上のプロンプトを使い、ChatGPT 4oとGeminiで実際に出力してみた質問リストは以下である。

  • ブログ掲載用に体裁は整えている。

ChatGPT 4

質問番号質問タイトル質問内容予想回答質問の優先度
1製番ごとの生産計画頻度貴社では、どのくらいの頻度で製番ごとの生産計画を立てていますか?毎プロジェクトごとに計画を立て、通常は月に2〜3回です。★★★
2内示受領のプロセス内示を受ける際のプロセスはどのように進められていますか?内示は営業部門からの連絡で受け、その情報を基に生産部門が準備を始めます。★★★
3製番計画の調整製番計画に変更が生じた場合、どのように対応していますか?設計変更や顧客要望に基づき、計画を見直し、関連部門に連絡を行います。★★★
4生産データの管理製番ごとの生産データはどのように管理されていますか?特定のソフトウェアを使用しており、各製番ごとに詳細データを保存しています。★★
5内示から生産開始までの期間内示を受けてから実際の生産開始まで、通常どれくらいの期間を要しますか?内示後、2週間以内に生産を開始することが多いです。★★
ChatGPT 4の出力結果

質問の内容はそのまま使って遜色ないレベルである。

プロンプトで指定した業務は「生産計画」「内示」であるが、「#背景」にあった「製番」について質問をしている。質問数を5個に限定したが、質問を網羅的に出題しようとしていることが伺える。製番管理において、製番の付与基準は重要なテーマなので、質問として挙げている点は評価したい。

ChatGPT 4o

質問番号質問タイトル質問内容予想回答質問の優先度
1生産計画の頻度貴社では生産計画をどのくらいの頻度で見直していますか?また、見直しの際にはどのような基準や情報を使用していますか?具体的な日付や頻度を教えてください。生産計画は月次で見直しています。主に販売予測や在庫状況、製造の進捗データを基に調整を行っています。★★★
2内示の受け取り方法貴社が内示を受け取る際、どのような手段やフォーマットで情報を受け取っていますか?また、内示情報が具体的にどのような内容で構成されているのか、数量や納期について詳しく教えてください。内示は主に電子メールで受け取っています。内容には製品の数量、希望納期、必要な仕様が含まれています。★★
3生産計画の変更需要や条件の変化によって生産計画を変更することがありますか?その場合、どの程度の頻度で変更が発生し、どのように関係者に情報を伝達していますか?生産計画の変更は月に数回発生することがあります。変更の際はメールで製造部門と営業部門に通知し、必要に応じて会議で詳細を確認します。★★
4製番の付与基準プロジェクト管理において、製番はどのように付与され、どのタイミングで作成されていますか?製番に含まれる情報についても教えてください。製番は受注が確定した時点で付与され、製品の仕様や納期、顧客情報などが含まれています。★★★
5生産計画の調整期間生産計画を調整する際、実際に生産ラインで変更が反映されるまでのリードタイムはどのくらいですか?また、調整のプロセスにおいて特に重要な点や課題はありますか?生産計画の調整から実際に反映されるまでには約2週間かかります。調整の際には材料の調達状況や設備の稼働状況を確認する必要があり、これが主な課題です。★★★
ChatGPT 4oの出力結果

ChatGPT 4の進化版であるChatGPT 4oは、ChatGPT 4と比較して知識量が多いためか、どの設問も文章量(情報量)が多い。ChatGPT 4と同様、こちらも質問文はそのまま使って遜色のないレベルである。

  • ChatGPT 4でもあった「製番」についての質問を出力している。プロンプトへの感受性は、ChatGPT 4とChatGPT 4oは同等なのかもしれない。同じトピックの質問をするということは、ChatGPT 4oはChatGPT 4の正常進化版であることを認識させる結果である。
  • ChatGPT 4oの文章は、ChatGPT 4よりも具体的である。たとえば、「内示の受け取り方法」の予想回答を比べると、ChatGPT 4では
    「内示は営業部門からの連絡で受け、その情報を基に生産部門が準備を始めます」
    とあり、「連絡」の手段や、「情報」の中身については触れていない。一方のChatGPT 4oは
    「内示は主に電子メールで受け取っています。内容には製品の数量、希望納期、必要な仕様が含まれています」
    と、電子メールという明示的な手段や、数量・納期など情報の中身が具体的である。具体的な質問をした方が、現行業務の様子を正確に聞き出すことができるので、この点は多いに評価できる。
  • ただし、情報量が多いが故に、気になった点もある。それは、一つの質問の中で、複数の質問をしている点である。「また」という接続詞を使い、畳み掛けるように複数の質問を重ねる傾向があるようだ。シンプルではない質問は、議論を発散させてしまうおそれがある。長い質問は、一問一答となるよう、分割して短くする編集を行った方がよい。
  • 「質問の優先度」は信用できそうだ。たとえば、「生産計画の頻度」の優先度は最高ランクの「★★★」だが、「生産計画の変更」は一段階低い「★★」である。これは、「生産計画の立案」は必ず行う業務であるのに対し、「生産計画の変更」は必ず行うとは限らないので、理に適っている。

Gemini

質問番号質問タイトル質問内容予想回答質問の優先度
1生産計画の期間貴社では、通常、どのくらいの期間の生産計画を立てていますか?(例:1ヶ月、3ヶ月、1年)3ヶ月★★★
2生産計画の更新頻度生産計画は、どのくらいの頻度で更新していますか?(例:毎週、毎月、毎期)毎月★★
3内示のタイミング顧客からの受注後、どのくらいの期間で生産を開始するための内示を出しますか?(平均日数)1週間★★
4内示の根拠となる情報生産開始の内示を出す際に、どのような情報に基づいて決定していますか?(例:顧客からの納期要求、在庫状況、生産能力)顧客からの納期要求、在庫状況★★★
5内示情報の共有範囲生産開始の内示情報は、社内のどの部署に、どのように共有していますか?(例:生産計画部門、製造部門、営業部門)生産計画部門、製造部門★★
Geminiの出力結果

ChatGPT 4o と比べると、質問内容も予想回答も、文章量が少ない。しかし、これはこれでシンプルで良い。質問に答えやすいよう、「例」を示している点も評価できる。

一方、違和感のある質問も作成されていた。

  • 質問番号の3番は「内示」に関する質問であるが、内示を「受ける」のではなく「出す」ものとして扱っている。通常、「生産計画」における「内示」といえば、「顧客から確定受注の前に受け取る事前情報」のことであるから、内示は「受ける」ものとして扱うのが、違和感がない。確かに、自動車メーカーなど、サプライヤーに対して定期的に内示を出す業務は存在するが、それならば「購買」の分野で扱うべきだろう。
  • 文章がシンプルなせいもあって、Geminiは業界・業界における業務の常識的な知識が、ChatGPT 4o に比べると「浅い」という印象を受ける。経験豊富なコンサルタントなら、浅い質問には違和感を持つことができるが、経験の少ないコンサルタントは、そのまま顧客に質問をしてしまい、「ヘンなことを聞くな」と怪訝な顔をされるかもしれない。
    これを防ぐには、Geminiで作成した質問リストはそのまま使うのではなく、下書きとして、経験のあるコンサルタントにチェックしてもらうのが良いだろう。

まとめ:生成AIで質問リストを作成しよう

ChatGPT 4o と Gemini の質問リストを作成する能力について、比較表に纏めておく。
(プロンプトで質問数を「5個」に制限したため、質問の網羅性については未検証である)

ChatGPT 4ChatGPT 4oGemini
質問の質★★★★★★★★☆
文章の量★★☆★★★★★☆
定量的・具体的な表現★★☆★★★★★★
顧客の解答を予想する能力★★★★★★★★☆



顧客ニーズを聞き出す質問リストを作成する能力は、いずれの生成AIも十分に実用的といえる。特に経験の浅いコンサルタントやエンジニアは、生成AIを活用することで、経験不足を補うことができるだろう。

ただし、生成された質問はそのまま使うのではなく、不適切な質問をしていないか、人間によるチェックは実施した方が無難である。

要件定義はシステム導入において、非常に重要かつ難しい工程であるが、適切なアプローチとツールの活用により、その成功率を高めることは可能である。経験不足や要件定義漏れをカバーする手段としての生成AIの活用は、今後ますます重要性を増すであろう。

要件定義の成功が、プロジェクト全体の成功につながることを肝に銘じ、スキルアップを目指したいものである。

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