SAP S/4HANAの導入を考える企業にとって、どのSAPモジュールを優先的に導入するかは非常に重要な戦略的決定である。各モジュールは異なるビジネスプロセスをサポートし、企業の競争力を高める役割を果たす。
今回は、筆者が考える、SAPモジュールの導入の優先順位をランキング形式で発表し、それぞれのモジュールの特徴と、ランキング理由を解説する。
ランキングにエントリーしたSAPモジュールは、以下の14モジュール。
BW(ビジネスウェアハウス)
CO(管理会計)
CS(顧客サービス)
EWM(拡張倉庫管理)
FI(財務会計)
GRC(ガバナンス、リスク、コンプライアンス)
HR(人事管理)
LE(ロジスティクス実行)
MM(購買管理)
PM(設備保全管理)
PP(生産計画管理)
PS(プロジェクト管理)
QM(品質管理)
SD(販売流通管理)
BC(ベーシス)はシステム基盤であり、絶対不可欠なモジュールなのでランキング対象外とした。
それでは発表!
SAPモジュールを導入する順番:おすすめの導入順序ランキング
13位: GRC(ガバナンス、リスク、コンプライアンス)
GRCモジュールは、企業のガバナンス、リスク管理、コンプライアンスを統合的に管理するためのツールである。特に、規制が厳しい業界や大規模企業において、法令遵守を強化し、リスクを最小化する役割を担っている。
ランキング理由
GRCの重要性は認めるものの、初期段階では他の基幹業務モジュールの導入が優先されることが多い。また、GRCの導入は企業の規模や業界によって必要性が異なるため、普遍的な優先度は低い。正直、このモジュールは導入しなくても企業経営は成り立つし、他の代替手段は幾らでもある。よって、ランキングは最下位の13位。
12位: CS(顧客サービス)
CSモジュールは、顧客サービスの管理とサポートを行うための機能を提供する。サービス依頼の管理や履歴の追跡を通じて、顧客満足度の向上に寄与するモジュールである。
ランキング理由
顧客サービスがビジネスの中心にある企業では重要だが、初期のシステム導入では、直接的な収益に繋がるモジュールが優先される傾向にあるため、12位とした。CSモジュールの導入は企業の成熟度や、顧客サービス戦略によって異なる。
11位: QM(品質管理)
QMモジュールは、製品やサービスの品質管理を行うための機能を提供する。品質チェックや不良品の管理を通じて、製品の品質向上とコスト削減を図ることが可能である。
ランキング理由
品質管理は製造業において特に重要であるが、全業種にわたる即効性のある効果は薄いため、導入優先度は後方となる11位に位置づけた。他の業務プロセスの整備が整った後に、品質管理の強化として導入されるケースが多い。
10位: PM(設備保全管理)
PMモジュールは、設備や機械の保全管理をサポートし、効率的な運用とメンテナンスを可能にする。これにより、設備のダウンタイムを最小化し、長期的なコスト削減を実現する。
ランキング理由
製造業やエネルギー業界など、設備管理が直接的に利益に影響する業種においては重要だが、一般的なオフィス業務においては優先度が低くなるため、10位とした。設備の運用効率を向上させるタイミングでの導入が効果的である。
9位: LE(物流管理)
LEモジュールは、サプライチェーン全体の効率化を図るための物流プロセスの実行をサポートする。輸送、配送、在庫管理を統合し、ビジネスの敏捷性を向上させる。
ランキング理由
ロジスティクス、物流管理は、特に製造業や小売業において重要性が高いが、初期導入段階では、MM(在庫購買管理)でカバーしてしまうケースが少なくないため、優先度はどうしても下がり、9位にランクインした。物流プロセスの効率化を図る際に導入することで、企業全体の業務効率を向上させることができる。
8位: BW(ビジネスウェアハウス)
BWモジュールは、企業のデータを集約し、分析やレポート作成を容易にするためのツールである。データに基づく意思決定を支援し、ビジネスインテリジェンスを向上させる。
ランキング理由
データ分析が競争優位を生む企業にとっては不可欠なモジュールだが、初期段階では基幹業務を支える他のモジュールが優先されることが多い。また、システム稼働当初においては、データの蓄積が十分でなく、分析に使用できる有効なデータが少ないため、導入を後回しにする判断が合理的である。よって、ランキングは8位とした。データがある程度蓄積され、モジュール導入により得られる洞察が、ビジネス戦略に直接結びつく段階での設定が効果的である。
7位: EWM(拡張倉庫管理)
EWMモジュールは、複雑な倉庫オペレーションを高度に管理するためのツールである。リアルタイムでの在庫管理や倉庫内の効率的なリソース配分を可能にし、物流の競争力を高める。
ランキング理由
大規模な物流センターや複雑な倉庫オペレーションを持つ企業にとっては非常に重要だが、基礎的な在庫管理=MM(在庫購買管理)が整備された後に導入されることが一般的であるため、7位にランクインした。導入効果を最大化するタイミングを見極めることが重要である。
6位: PS(プロジェクト管理)
PSモジュールは、プロジェクトの計画、実行、監視をサポートする。特に複雑なプロジェクトを管理する企業にとっては、コスト管理や進捗状況の可視化に役立つ。
ランキング理由
プロジェクトベースの企業には不可欠なモジュールだが、一般的な業務において必要性は高くない。しかし、受注設計生産など、製造立国日本を支えるための重要なモジュールという位置づけなので、ランキングは6位とした。プロジェクト管理が企業の主要業務に深く関与する場合は、他の基幹モジュールと平行して導入されることが多い。
5位: HR(人事管理)
HRモジュールは、企業の人事管理プロセスを支援する。給与管理、労務管理、採用プロセスの効率化を図り、人的資源の最適化に貢献する。
ランキング理由
人事管理は企業運営の基本であり、特に規模の大きな企業ではその重要性が高まるため、5位にランクインした。他の業務プロセスが整備された後、社員のモチベーション向上や効率化を図るために導入されることが多い。
4位: PP(生産計画管理)
PPモジュールは、製造プロセスの計画と管理をサポートする。生産スケジュールの最適化や資源の効率的な利用を通じて、在庫、生産コストの削減と製品の品質向上を実現する。
ランキング理由
製造業においては基幹的なモジュールであり、生産効率を向上させるために早期の導入が求められるため、4位に位置づけた。SD(販売管理)やMM(在庫購買管理)など、他の業務モジュールと連携することで、企業全体の競争力を高める効果がある。
3位: MM(在庫購買管理)
MMモジュールは、購買プロセスの管理を効率化し、在庫の最適化を図るためのモジュールである。在庫を可視化し、サプライヤーとの関係を強化し、コスト削減を実現する。
ランキング理由
在庫購買管理は企業のコスト構造に直接影響を与えるため、早期の導入が望ましいことから3位にランクインした。サプライチェーン全体の効率化を図るための基盤として、他の業務モジュールと連携することで大きな効果を発揮する。
2位: SD(販売管理)
SDモジュールは、販売プロセスの管理を通じて、顧客満足度の向上と売上の最大化を図る。受注から出荷、請求に至るまでのプロセスを効率化し、収益を向上させる。
ランキング理由
販売管理は企業の利益に直結するため、初期導入段階での優先度が高いことから2位にランクインした。顧客関係の強化や市場競争力の向上に寄与し、他の業務モジュールとの連携によってさらなる効果を生み出す。
1位: FI(財務会計) & CO(管理会計)
FIモジュールは、企業の財務データを一元管理し、正確な財務報告を可能にする。一方、COモジュールは、コスト管理や利益分析を支援し、企業の収益性を向上させる役割を担う。
ランキング理由
財務会計と管理会計は企業の基盤を形成し、どの企業においても普遍的に必要なので、最も優先的に導入されるべきモジュールである。よって、ランキングは堂々の1位。企業の資金状況をリアルタイムで把握し、戦略的な意思決定を支援するのに不可欠なモジュールである。また、様々なモジュールを統合することで、企業全体の業務プロセスを最適化できるのがERPの特長であるが、そのド真ん中に位置するモジュールが会計である。
まとめ:SAPモジュールの特性を理解して導入順序を決める
このランキングは、一般論に筆者独自の考え方を加えた順位である。企優によって、優先順位は異なるのが当たり前なので、参考程度に見て頂きたい。
ERPシステムはエンタープライズの名前が示す通り、多岐の業務に渡る複雑なシステムである。SAP S/4HANAにおいても、導入は決して簡単ではない。SAP S/4HANAの導入において、企業は自社のビジネス戦略や業務プロセスの重要度に合わせて適切なモジュールを選択し、優先順位をつけて導入することが重要である。
財務会計や管理会計を中心に、各業務モジュールの特性を理解し、導入のタイミングを見極めることで、最大限の効果を引き出すことができるだろう。
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