SAPの在庫管理|在庫タイプをわかりやすく解説

SAPの在庫管理と在庫タイプをわかりやすく解説

「在庫管理」は、どの基幹システムパッケージにも標準で備わっている基本的な機能だ。

SAPにおいても、MMモジュールの在庫管理(MM-IM: Inventory Management)は、購買・生産・販売といった業務の土台を支える中核的な機能となっている。

とはいえ、SAPの在庫管理は「用語が多い・難しい」「概念が直感的じゃない」といった理由から、初心者にはとっつきにくいと感じられがちだ。
その大きな原因のひとつが、在庫を非常に論理的かつ厳密に分類している点にある。

そこで本記事では、SAPの在庫管理の中でも「わかったようで、いまいちわからない」ことの多い「在庫タイプ」を中心に、初心者にもわかりやすく解説する。
SAPにおける在庫管理の設計思想から順を追って説明していく。

目次

SAPの在庫管理の役割

単なる数量管理だけではない

SAPの在庫管理は、単に「倉庫に何個あるか」という数量の管理をするだけではない。
実務で必要な、次のような判断のために使われる。

  • この在庫は今すぐ出荷できるのか
  • この在庫は製造に使えるのか
  • この在庫はどの顧客用か
  • この在庫は検査中か
  • 会計的に資産として計上すべきか
  • 将来の需要に対して約束できるか

SAPでは、これらを人の判断ではなく、システムロジックで自動判定できるようにしている。
そのため、在庫の所有者や、在庫の状態を細かく区別している。

SAPの在庫は二階層構造

SAPの在庫は「二階層構造」で設計されている

SAPの在庫タイプを解説する前に、まずはSAPにおける在庫管理の基本的な仕組みと構造をおさえておこう。

SAPでは、在庫は次の二階層になっている。

SAPの在庫管理の概念
SAPシステムの在庫管理の概念

SAPの在庫管理は二階層

  • 一階層目:誰の在庫か(在庫の所有者)
  • 二階層目:どのような在庫か(在庫の状態)

この階層構造の概念を覚えておくと、在庫タイプ・引当・ATPの役割や関係がスムーズに理解できるはずだ。

一階層目の在庫:誰の在庫か

一階層目の在庫は、「誰の在庫か」という分け方である。
つまり、その在庫が特定の顧客専用なのか、特定のプロジェクト専用なのか、あるいは共用なのかという分け方だ。

顧客用でもプロジェクト用でもない、誰のものでもない共用の在庫は「一般在庫」と呼ばれる。
(「共有在庫」「自由在庫」「包括在庫」と呼ばれることもある)

この「一般在庫」という呼び方は、SAPシステム上の正式な名称ではなく、画面上にも表示されない。
あくまで業務上の通称である。

SAPシステムの仕組み上、厳密には「受注在庫でもプロジェクト在庫でもない在庫」というのが正しい表現だが、短く言うために現場では「一般在庫」と呼ばれることが多い。

一方、受注在庫やプロジェクト在庫のように、特定の用途が決まっている在庫は「特殊在庫」と分類される。

受注在庫とは

受注在庫は、特定の販売受注に紐づいた在庫である。
この在庫は、その受注以外には使用できない。

SAPシステムでは、受注在庫は「受注伝票番号」に紐付く在庫として管理される。

通常、販売受注には受注先である顧客の存在があるので、受注在庫=受注先の顧客専用の在庫となり、他の受注や顧客に対する引当や出荷はできない。

プロジェクト在庫とは

プロジェクト在庫は、特定プロジェクト専用の在庫である。

プロジェクトは、建設業・エンジニアリング業、システム開発など、いわゆる個別受注生産でよく使われる。
SAPシステムでは、プロジェクトはプロジェクトシステム(PS)モジュールの範疇であり、「WBS番号」に紐付く在庫として管理される。

プロジェクト在庫は、プロジェクトが終了するまで、他の受注やプロジェクトには流用できない。

一般在庫とは

受注在庫やプロジェクト在庫は「特殊在庫」として分類される。
逆に、受注在庫でもプロジェクト在庫でもない、いわば誰のものでもない共有の在庫は「一般在庫」と呼ばれる。
“特殊”の反対は“一般”なので、名前のとおりといったところだ。

「一般在庫」という用語は、実はSAPシステムの画面上には出てこない。あくまで通称として使われている表現だ。
現場によっては「通常在庫」「包括在庫」「自由在庫」などと呼ぶこともあるが、本記事では「一般在庫」という呼び方で統一して説明していく。

二階層目の在庫:どのような在庫か

二階層目の在庫は、「在庫がどのような状態にあるのか」を表す。
在庫の状態とは、大雑把な言えば、その在庫が

  • 使っていいのか
  • 出荷できるのか
  • 検査中か
  • 引当できるのか

などを判断するための区分だ。

この区分の代表格が「在庫タイプ」である。

在庫タイプ

在庫タイプとは

在庫がどのような状態にあるのか」を表す主な区分が「在庫タイプ」である。
在庫タイプには、次の3種類がある。

在庫タイプ
  • 利用可能在庫
  • 品質検査中在庫
  • 保留在庫

在庫タイプは、たとえば購買発注の入庫時に「在庫タイプ」から指定可能である。

入庫時の在庫タイプの選択

在庫タイプの種類

利用可能在庫(Unrestricted-use stock)

最も基本的で普通の在庫である。

  • 出庫可能
  • 引当可能
  • ATP対象

であり、通常の業務(販売・生産)に使われる。

品質検査中在庫(Quality inspection stock

品質検査中在庫は、検査が完了するまで使用できない在庫だ。
数量は存在するが、販売や製造には使えない。引当もできない。

品質検査が完了すると、在庫移動処理によって利用可能在庫へ変更される。

保留在庫(Blocked stock)

保留在庫は、破損・調査中などの理由で一時的に利用を止めた在庫である。
この在庫も、引当や出庫には使えない。

在庫の種類 と 在庫を確認できる画面

在庫の種類

以下は、MMBEなど、在庫を確認する画面上に表示される各種在庫の名称とその意味である。

表示名意味在庫タイプ or
業務プロセス
注意事項・備考
利用可能在庫
(Unrestricted-use)
制限なしに使用・販売・出庫が可能な実在庫。在庫タイプ最も基本な在庫。評価対象在庫のメインとなる在庫。
非利用可能在庫
(Restricted-use)
ロットステータスが「使用不可」状態にある在庫業務プロセスロット管理のみ出現。
品質検査(品質検査中)
(Quality inspection)
品質検査中のため、自由に使用できない在庫。在庫タイプQM連携時に使用。使用決定(Usage Decision)を行うまで「利用可能」にならない。
出庫予定
(Reserved)
入出庫予定(予約)や製造オーダーによって、将来の出庫が計画されている数量。業務プロセス実在庫から差し引かれているわけではない点に注意。
入庫予定
(On-order stock)
購買発注(PO)は出されているが、まだ入庫していない数量。業務プロセス購買発注伝票に基づいた期待数量。
購買発注残数量
(Consignment ordered)
購買発注中で未入庫の残数量。業務プロセス自社在庫ではなく、仕入先所有の在庫予定。
受託品発注残
(Consignment order)
(上記と同様) 受託品ルートでの発注残。業務プロセス環境設定により表示が分かれる場合がある。
プラント間転送中
(Stock in trans. plant)
2ステップ転送などで、払出プラントからは出庫されたが、受入プラントに入庫していない数量。業務プロセスプラント間の「移動中」の状態を指す。
保管場所間転送中
(Stlk in trans. loc)
同一プラント内の保管場所間で移動中の数量。業務プロセス保管場所レベルでの移動中ステータス。
入庫保留在庫
(GR blocked stock)
入庫時に「保留」として受け入れた、まだ自社資産として計上されていない在庫。業務プロセス非評価在庫(資産ではない)。
移動タイプ105で入庫保留解除。
出荷処理中
(Scheduled for delivery)
出荷伝票は作成されているが、まだ出庫確認(PGI)が完了していない数量。業務プロセスSD(販売管理)連携時に重要な項目。
売上返品
(Returns)
顧客から返品された、評価待ちの在庫。業務プロセス通常は非制限在庫とは区別して管理される。
保留在庫
(Blocked)
破損や期限切れなどの理由により、何らかの理由で使用を禁止している在庫。在庫タイプ「入庫保留」とは異なり、自社資産に含まれるが使用不可の状態。
受託在庫転送 Plnt
(Transf. stock cons.)
預託品(受託品)のプラント間移動中の数量。業務プロセス特殊在庫(仕入先預託)に関連する。
出庫評価 SIT
(Issuing Val. SIT)
出荷中の在庫で、所有権移転のタイミングに基づき「評価対象」となっている転送中在庫。業務プロセスS/4HANA等の高度な在庫転送(SiT)機能で使用される。
入庫評価 SIT
(Receiving Val. SIT)
入荷中の在庫で、所有権移転のタイミングに基づき「評価対象」となっている転送中在庫。業務プロセスS/4HANA等の高度な在庫転送(SiT)機能で使用される。

在庫を確認できる画面

在庫状況照会(T-CD: MMBE)

品目別の在庫の状況を照会・確認する標準トランザクションである。
MMBEは単一品目の在庫しか照会できない。複数品目の在庫を照会したい場合は、後述のFioriアプリを利用する。

MMBE在庫状況照会の例

在庫 単一品目(App ID: F1076)

MMBEのFiori版。

標準トランザクションでは表示列の変更はできないが、Fioriではカラムの追加・削除など、表示項目を自由にカスタマイズできる。「非利用可能在庫」の表示も最初から可能だ。

表示速度は標準トランザクションに比べるとやや遅めだが、一覧データをExcelファイルにエクスポートできるなど、使い勝手はFiori版のほうが良い。

Fiori F1076:在庫-単一品目

 在庫 複数品目(App ID: F1595)

こちらも MMBE のFiori版だが、複数品目の在庫状況を同時に見ることができる。
大量の品目を同時に表示しようとすると時間がかかるので、要注意。

Fiori F1595:在庫-複数品目

在庫タイプの変更方法

在庫移動で在庫タイプを変える

在庫タイプを変更(遷移)させるには、いわゆる「在庫移動」操作を行う。
在庫移動に使用するSAP標準トランザクションは、T-CODE: MIGO である。

MIGOはあらゆるパターンの在庫入庫・出庫・移動を行うことができる、在庫入出庫に関しては万能の画面である。
MIGOを使って在庫移動する際、ついでに在庫タイプも変更する、といった具合だ。

移動タイプ

MIGOでは、在庫移動の種類を「移動タイプ(Movement Type)」で指定しながら処理を行う。

移動タイプは、
「どの在庫タイプから、どの在庫タイプへ、どの理由で移すか」
を定義したコードである。

この移動タイプという仕組みは、S/4HANAなどの SAP ERP において、とても重要な役割を持っている。
というのも、SAPの在庫移動では、単に在庫の数量を移動・入出庫させるだけでなく、それに伴う会計自動仕訳までリアルタイムで実行されるからだ。
その一連の動きをコントロールしているのが移動タイプというわけだ。

実際、「SAPを理解したければ、移動タイプを理解せよ」と言うSAPコンサルタントもいるほどである。

MIGOによる在庫タイプ変更

各状態の在庫は、次の表にある移動タイプを指定して在庫移動を実行すれば、在庫タイプを変更できる。

利用可能在庫(Unrestricted Use)から

変更元変更先移動タイプ会計伝票の発生QM使用/未使用の違い備考
利用可能在庫品質検査在庫322なしQM有無に関係なく同じ検査・再確認のための差戻し
利用可能在庫保留在庫344なしQM有無に関係なく同じ不良・隔離
利用可能在庫出庫(消費)201 / 261 / 601ありQM関係なし原価・売上に影響

品質検査在庫(Quality Inspection)から

変更先移動タイプ会計伝票の発生QM使用/未使用の違い備考
品質検査在庫利用可能在庫321なしQM使用時:UDで自動QM未使用:手動実行検査合格
品質検査在庫保留在庫343なしQM使用時:UDで自動可検査不合格
品質検査在庫廃棄551ありQM関係なし評価減・損金処理

保留在庫(Blocked Stock)から

変更元変更先移動タイプ会計伝票の発生QM使用/未使用の違い備考
保留在庫利用可能在庫350なしQM関係なし再利用可判断
保留在庫品質検査在庫344なしQM使用時は再検査対象再検査
保留在庫廃棄551ありQM関係なし評価減

入庫保留在庫(GR Blocked Stock)から

変更元変更先移動タイプ会計伝票の発生QM使用/未使用の違い備考
入庫保留在庫利用可能在庫105ありQM関係なし入庫保留の解除は101と同じ作用
入庫保留在庫返品122ありQM関係なし仕入先返品
  • UD: “Usage Decision”(使用決定)の略。

ロット管理を有効にしている場合の在庫

ロット管理品の在庫状態

ロット管理品には「ロットステータス(Batch status)」というものがある。
ロットステータスには

  • 利用可能(Unrestricted)
  • 非利用不可(Restricted)

がある。

非利用可能在庫(Restricted-use stock)

在庫の視点で見ると、ロットステータス「利用可能」は、在庫タイプ「利用可能在庫」と同じ意味である。
一方の「非利用可能」は、在庫タイプは利用可能在庫であり、利用可能在庫と同じ場所に保管されているが、出荷も引き当てもできない状態にある。

ロットステータスの変更

MSC2N(ロット変更)によるロットステータスの変更

ロットステータスの変更は、MIGOによる在庫移動では実行できない
代わりに、T-CODE:MSC2N(ロット変更)を使用して変更する。

T-CD: MSC2N ロットステータスの変更

QMモジュールによるロットステータスの変更

MSC2Nを使えば、簡単にロットステータスを変更できる。
しかし、実際の現場では「なぜそのステータスに変えたのか」という理由を残さず、強引に変更できてしまうため、監査的にはあまり好ましくない方法だ。

そもそも、「このロットは使えるのか、それとも使えないのか」という判断は、実際の現場では品質検査などの業務プロセスを経て決まるものだ。

この検査プロセスは、SAPシステムではQM(品質管理)モジュールの担当領域であるため、本来はQMの機能を使ってロットステータスを変更するのが正攻法である。

S/4HANAでは、ロットステータスの変更は、T-CD: QA11(使用決定記録)を使って行う。
検査ロットに対して使用可否を登録することで、該当ロットに「利用可能」または「非利用可能」のロットステータスが自動付与される仕組みだ。

非利用可能在庫の確認方法

T-CD: MMBE(在庫状況照会) でロットステータス(の在庫)を確認する場合、列「非利用可能在庫(Restrictd-use)」は標準の照会タイプでは表示されない。
非利用可能在庫を表示するには、選択項目「バージョン照会」より、照会タイプ=「14: ステータスありロット」 を選択する。

MMBEで「照会タイプ」を変更する

MMBEで非利用可能在庫を表示する

なお、Fioriアプリ「在庫 単一品目」や「在庫 複数品目」では、列「非利用可能在庫」は最初から表示されている。

まとめ:SAPの在庫管理の構造と在庫タイプを理解する

SAPの在庫管理は難解に見えるが、二階層構造を理解すれば驚くほど整理される。

  • 一階層目:誰の在庫か
    👉 受注在庫/プロジェクト在庫/一般在庫
  • 二階層目:どのような在庫か
    👉 在庫タイプ

MMBE(在庫状況照会)などの画面上では、業務プロセスと連動した様々な在庫を確認できるが、在庫タイプは以下の3種類に整理される。

  • 利用可能在庫(Unrestricted-use stock)
  • 品質検査中在庫(Quality inspection stock)
  • 保留在庫(Blocked stock)

この記事を読んで、SAPの在庫管理が「わかりにくい機能」から「使いこなせる武器」へと、少しでも変われば幸いである。


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