SAPプロジェクトにおいて、高齢のSAPコンサルタントが豊富な経験を活かして活躍する場面は多い。しかし、その経験が時に「老害」として若手や組織全体に悪影響を及ぼすこともある。特に、過去の成功体験に固執し、新しい技術や方法論を拒む姿勢は、プロジェクト推進を妨げる要因となる。
なお、本記事に示す事例や提案は、SAPプロジェクトに限らず、すべての仕事の現場に当てはまるものである。老害に苦しんでいる人、老害になりたくない人は、ぜひ最後まで読んでいただきたい。
SAPコンサルタントに見られる「老害」の特徴

1. 過去の成功体験に固執する
最も典型的な老害的言動が、「以前はこうした」という発言だ。この発言は、かつてのやり方が現在でも正しいと無意識の前提に立っており危険である。
たとえば、

俺が以前手掛けたプロジェクトではこの方法でうまくいったんだよ
という発言は、過去の方法が現在でも有効であるという偏った認識に基づいており、技術やビジネスの進化を無視している。
SAPも含め、ITの世界は日々進化している。10年前の成功が現在にも通用する保証はどこにもない。
2. 新技術や情報に対する無関心
最新のSAPテクノロジーである S/4HANA、BTP、Public Cloud、Fiori UX、SAP Best Practicies などに対して「よくわからない」「学ぶ気が起きない」と発言し、従来のABAPやR/3時代の技術と手法でプロジェクトを進めようとする傾向も老害的態度の一つである。



BTP? Fiori?
よくわからないなぁ
今さら勉強してもなぁ
その背景には、「わからないものに対する恐れ」や「これまでのやり方で十分だった」という過信が存在する。
中には、新技術を



新しい技術はどうせ役に立たない
今までの技術で十分だ
と根拠なく決めつけてしまうコンサルタントもいる。
これらは結果的にプロジェクトの技術選定を遅らせ、競争力を失う要因となる。
3. 自己流にこだわり、他者の意見を受け入れない



このやり方(俺のやり方)でやればいい
以前それでうまくいったから
という発言に象徴されるように、自分の経験を過信し、若手や他のコンサルタントの提案を退ける姿勢も、老害的行動の一つである。
また、レビューの時、若手が提案した改善案を即座に却下し、「そのやり方じゃうまくいかない」と断じるのが習慣化している年長者もいる。
しかし、提案された内容を十分に検討せずに否定することは、プロジェクトの学習と改善の機会を奪う。
4. 経験談や武勇伝を長々と語る



あの時は〇〇で炎上しかけたけど、俺が何とかしてやった
このような武勇伝や、「昔はな…」「俺が若い頃は…」のような経験談は、文脈や時間配分を無視して語られることが多く、若手の発言機会を奪い、会議の生産性を大きく下げる。
昔は昔、今は今である。大昔の武勇伝や自慢話が、今のプロジェクトの役に立つことはほとんどない。話すだけ時間の無駄なのだが、それに気付かないのが、まさに老害である。
「老害」がSAPプロジェクトにもたらす弊害


SAPプロジェクトは、長期間にわたり多くの関係者が関与する大規模プロジェクトである。だからこそ、プロジェクトメンバーの行動や考え方がプロジェクト全体に及ぼす影響は非常に大きい。
その中でも、年長コンサルタントの「老害」的振る舞いが、知らず知らずのうちにプロジェクトに深刻な悪影響を及ぼすケースは少なくない。
以下に、プロジェクトの現場で見られる「老害」の「あるある」を紹介する。
あるある①:技術選定が“過去の成功体験”で止まる



10年前にやったプロジェクトでは、その機能はZ開発(アドオン)でやった。だから今回もそうするべきだ!
という主張が現れ、標準機能やBTPの活用を完全に無視した構成で設計が進行。
後になって、標準のFioriアプリで同様のことが効率的に実現できることが発覚。ユーザーからは
「なんでわざわざ作ったの? しかも古い方法で!?」
と苦情が相次ぎ、やり直しのための追加改修費用が膨らむ。
あるある②:若手メンバーの意欲を挫く発言



その機能ならFioriで簡単に作れそうです



いや、Fioriは危険だ!
若手が「 Fiori の画面で簡単に作れそうです」と提案すると、 「いや、Fioriは使いにくい」「新技術はリスクがある」「ABAPで十分いける!」と否定。さらに「若いうちは黙ってろ!」と言い放つ。
若手は萎縮し、発言しなくなる。アイデアが出なくなり、イノベーションが起きないチームに。
優秀な若手が次の配属で異動を希望し、知識継承が途絶える。
あるある③:会議が“説教タイム”になる



俺が若い頃はもっと厳しくレビューされた
昔は徹夜や残業は当たり前だった…
設計レビューの場で、「俺が若い頃はもっと厳しくレビューされた」「昔は徹夜や残業なんて当たり前」と語り出し、気づけば1時間の会議のうち45分が昔話。
会議の目的が達成されず、レビューは再設定。若手や他チームは内心「またか…」と呆れ顔。
チームの一体感が失われ、次回の参加者が減る。
あるある④:エビデンスより「経験が正しい」と言い張る



データ連携ならWeb API(OData)を使いましょう



API? 実績はあるのか?
俺の経験ではIDOCだ!
データ連携にAPIを使うべきか、IDOCにすべきか議論していたところ、年長コンサルが「俺の経験ではIDOCにしとけば間違いない。APIはトラブルが多いはずだ」と断言。
実際にはそのユースケースにおいてはAPIの方が適しており、後で再開発が発生。納期遅延とコスト増に繋がり、PMが火消しに追われる。
あるある⑤:マネジメントの意思決定を妨害する



方法論はPMBOKをベースに…
WBSはプロジェクトマネージメントツールを使って…



新しいツールや手法は現場が混乱する
今までと同じやり方でやろう
管理ツールはExcelで十分だ!
新進気鋭のプロジェクトマネージャーが、新しい方法論や管理ツールでプロジェクトを推進しようとした。しかし、「その方針では現場が混乱する」「今までと同じやり方でやるべきだ」「管理ツールはExcelで十分だ」と横槍を入れる年長者。
メンバーは指示に従うか、古株の意見に従うか迷い、組織が分裂。マネジメント層のリーダーシップが形骸化し、責任の所在も曖昧になる。
これらはすべて、SAPプロジェクトにおける「老害」によって引き起こされる典型的な弊害である。
一つひとつは些細なことに見えても、積み重なればプロジェクト全体の品質・進捗・モチベーションを大きく損なう要因となる。特に、SAPのように長期・大規模なプロジェクトでは、初期段階の判断ミスや空気感が後々まで尾を引くことが多い。
生成AIで「老害」的行動を防ぐための実践的アプローチ


生成AIは、単なる情報収集ツールを超え、SAPプロジェクトにおける思考・意思決定・対話の質を劇的に向上させる可能性を秘めている。
以下のように活用すれば、老害を防止できる可能性がある。
1. ChatGPTで最新技術やユースケースを迅速に取得
たとえば、
- SAP BTPを活用した最新の業務改善事例を教えて
- ABAP RESTful Programming Modelのベストプラクティスを教えて
- SAP Build Process Automationによる業務プロセス最適化の実現方法は?
- SAP S/4HANA移行プロジェクトにおけるFit-to-Standard分析に生成AIはどう使いますか?
と ChatGPT や Gemini に尋ねることで、過去の知識に頼らず、常に最新かつ理論的な提案が可能になる。
2. 発言ログや会議要約をAIで分析し、振り返りに活用
AI文字起こしツール(Notta、Otter.aiなど)などで会議ログを取得し、ChatGPTに以下のような分析を依頼できる。
- この会議で誰の発言が多かったか? また、否定的な表現が多かったのは誰か?
こうして得られた定量データを使い、自らの老害的傾向を自覚することが可能だ。
また、Microsoft Teams + 365 Copilot を利用中であれば、会議の最中であっても、以下のような質問をCopilotに行い、改善ポイントを示してもらうことができる。
- この会議中に否定的な発言が多かった人を、ランキングで表示してください。
- 感情的に話していた人はいましたか?
- 会議の目的は「〇〇を決定する」ですが、目的に合わない主張を述べていた人は?
3. フィードバックや改善提案をAI経由で提供
SlackやTeamsにChatGPTを連携させ、AIが週次で「改善のヒント」を中立的に提示する。たとえば、
- 会議中、過去の経験に基づく意見が多く見られました。今後は他の視点も取り入れてみましょう
といった形で、直接的でなく柔らかく改善を促せる。
Microsoft 365 Copilot を利用しているのであれば、Teams会議終了後に
- 今の会議の発言で、議論を活性化させるための改善すべきポイントを示してください
とプロンプトを打つだけで、即座に改善ポイントを提示してくれる。
4. ナレッジ共有・教育ツールとしてAIを活用
若手向けに複雑な技術をわかりやすく説明した資料を生成したり、年長者向けに「最近のトレンド解説」をChatGPTで自動生成するなど、AIが世代間の知識共有の潤滑油となる。
ChatGPTを仕事で活用するため、初心者向けにChatGPTの始め方をわかりやすく解説した記事は以下。


「老害」ではなく「尊敬される年長者」になるために


すべての年長コンサルタントが老害になるわけではない。むしろ、若手から「この人と一緒に働きたい」と尊敬され、チームにとって欠かせない存在となっている年長者も多く存在する。単に年齢を重ねただけでは得られない信頼と尊敬は、日々の姿勢と行動に根ざしている。
ここでは、SAPコンサルタントとして「老害」ではなく「尊敬される年長者」になるために実践すべき具体的な行動とマインドセットを紹介する。
1. 「今の標準」を学び続ける習慣を持つ
年齢やポジションに関係なく、「学び続ける姿勢」は尊敬される人の基本である。SAPも技術トレンドが常に変化しているため、S/4HANA、SAP BTP、Fiori、OData、Joule など、最新技術のキャッチアップは不可欠だ。
- SAP関連のブログや、SAP CommunityのRSSを購読
- 月に1回は ChatGPT や perplexity に「SAPの最新トレンドは?」と尋ねて要約を得る
- SAP Learning Hub や openSAP で定期的に無料トレーニングを受講
2. ChatGPTで自分の知識を補完し、資料作成にも活用
生成AIを日常的に活用している年長者は、それだけで若手に「柔軟で新しいことを受け入れる人」という印象を与える。知識不足を隠すのではなく、AIを通じて補完することで、自分をアップデートし続ける姿勢が示せる。
- 「この要件に合うS/4HANA標準機能は?」とChatGPTに聞く
- 若手からの質問に即答できない場合、「一緒にAIで調べてみよう」と協働の姿勢を見せる
- プレゼン資料のドラフト作成を生成AIに依頼し、時短と品質向上を両立
3. 若手の意見に耳を傾け、まずは肯定から入る
老害的な人は他人や若手の意見にすぐダメ出しをするが、尊敬される年長者は、まず「なるほど、面白いね」「そのアイデアを検討してみよう」と受け止めた上で、自分の意見を添える。この一呼吸があるだけで、参加者は意欲的に発言できるようになる。
- 会議で発言する前に「他の人の意見を聞いてから考えよう」と一度止まる
- 意見を否定したくなった時は、まず「そのアイデア、どこが気に入ってるの?」と質問してみる
- 若手のアイデアを「自分の判断材料」にする意識を持つ
4. 自分の「経験談」を教育的に活かす
経験は語るものではなく、活かすものである。「昔はこうだった」だけではなく、「この経験から何を学んだか」「今の状況ならどうするか」をセットで語ることで、周囲に気づきを与えることができる。
- 経験を語る際は「当時と今の違い」にも言及する
- 生成AIに「この経験談を今風に言い換えると?」とリライトさせてみる
- 経験を生成AIを使ってマニュアル化・教材化して整備し、ナレッジとして残す
5. チーム成果を優先し、「自分が主役にならない」
プロジェクトは個人戦ではなくチーム戦。尊敬される年長者は、自分の実績よりも「チームが成長できたか」「後進が活躍できたか」を重視する。成果をチームに譲れる人ほど、周囲の信頼を集める。
- 成果報告の際に「今回は若手が活躍してくれた」と明言する
- 会議では「自分が話すより、若手にプレゼンしてもらう」機会を作る
このように、日々の小さな行動の積み重ねが、「老害」と「尊敬される年長者」の違いを生む。生成AIを使いこなす姿勢そのものが、次世代への模範となり、信頼を築く礎となるのだ。
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」 – 変化に適応する力を持て


ドイツ帝国の宰相オットー・フォン・ビスマルクの言葉に、こういうものがある。
ここでいう「歴史」とは、自分ではない誰かの失敗や知識から学ぶという意味である。プロジェクトの現場で必要とされるのは、「俺はこうやってきた」ではなく、「他社の失敗事例と原因はこうだ」「今のベストプラクティスはこれだ」というファクトベースの判断力だ。
経験はもちろん貴重だが、それがすべてという発想は危険だ。時代が変わり、技術も価値観もアップデートされている以上、過去に学びつつも未来に対応する柔軟さこそが重要である。
まとめ:老害を防ぎ、すべての世代が協力できるSAPプロジェクトへ


SAPプロジェクトにおいて、老害的な言動はプロジェクトの失敗を引き起こす重大なリスクである。しかし、それは避けられないものではない。むしろ、生成AIというツールを活用することで、自らをアップデートし、尊敬される年長者としてプロジェクトに貢献する道が開かれている。
今こそ、
- 「以前のやり方」に固執せず、
- 「今とこれから」の最善を考え、
- 「生成AI」とともに進化する姿勢を持つこと
が、すべての年長コンサルタントに求められている。
老害ではなく、優れたリーダーとして――。
それが、経験とテクノロジーの最良の融合であり、成功するSAPプロジェクトの鍵となるのだ。
老害のひとつに「長文メール」というのがある。要点の見えない長文メールは立派なハラスメントだ。生成AIを活用した、長文メールハラスメントへの対策法を紹介した記事は以下。


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