今回は、SAP S/4HANAにおけるMRPの需要データである「計画独立所要量(PIR)」と、MRP(資材所要量計画)実行時に計画独立所要量の処理方法を決定するパラメータ「所要量タイプ」について、生成AIを活用して解明していく。また、管理会計(CO)モジュールとの関連にも触れる。
さらに、生成AIによるMRP実行時の、PIR消費のシミュレーションにもトライしてみたので、使用したプロンプトとシミュレーションの結果も参考にしていただきたい。
生産方式(生産形態)の種類と、計画方針グループがどの生産方式に対応するかの関連を生成AIを活用しながら解説した前回の記事は以下。

本稿で利用した生成AIは、ChatGPT 4.5(Preview) および ChatGPT o3-mini-high である。
PIR消費シミュレーションに関しては ChatGPT 4.5 の方が、少ないプロンプトでも正確な回答を返す傾向が強かった。しかし、検証の途中でトークンが枯渇したため o3-mini-high に切り替えた。そのため、シミュレーションの結果は o3-mini-high によるものであり、精度は 4.5 よりも劣る。
読者の皆様におかれては、本稿のシミュレーションの結果を鵜呑みにせず、実機にて検証されることを推奨する。
計画独立所要量(PIR)とは?
「計画独立所要量(PIR: Planned Independent Requirements)」とは、「会社が予測して設定した製品の生産計画数量」のことである。
計画独立所要量の目的と役割
計画独立所要量の目的は、市場の需要予測や過去の販売実績を元に、「事前にどれくらい製品を生産するべきか」を計画することである。
具体的には以下のような役割を持つ。
- 生産計画を立てるための基準となる
-
将来の販売予測を元に、いつ、どの製品を、どのくらい生産すべきかを登録する。
- 資材や原材料の調達計画につながる
-
MRPを実行すると、PIRをもとにして、生産に必要な部品や原材料が手配される。
計画独立所要量の消費(PIRの相殺)
計画を受注で相殺し、過剰生産を抑止
計画独立所要量は、MRPを実行するとPPのパラメータ「所要量タイプ」の設定に応じて消費(相殺)される。
具体的には、次の2つの方法がある。
- 得意先受注で消費する場合
-
実際の注文が入ると、その注文分の数量がPIRから減っていく(見込生産方式)。
- 下位品目(中間品・半製品)の生産で消費する場合
-
製品の最終組立は行わず、部品や半製品の生産に対してPIRが消費される方式もある。
たとえば、方針グループ=40(見込生産+受注生産)では、受注伝票が登録されるとPIRが消費され、残ったPIRの分だけが生産オーダー(計画手配)として残る。つまり、受注に応じて計画(PIR)を動的に変更し、過剰な生産を抑えられるのだ。
消費モードと消費期間
計画独立所要量の消費には次の2種類があり、その設定を「消費モード」と呼んでいる。
- 順消費(Forward Consumption): 受注が発生した時点から将来のPIRを消費
- 逆消費(Backward Consumption): 受注が発生した時点から過去のPIRを消費
消費モードは品目マスタの「MRP3」ビューに、消費期間とともに設定する。
品目マスタに消費モードが設定されていない場合は、パラメータに設定されている消費モードが使用される。パラメータに設定する際は、プラント + MRPグループごとに設定する。パラメータの設定箇所は以下。
生産計画/管理 > 生産計画 > 需要管理 > 計画独立所要量 > 更新: 消費モードおよび調整期間
T-CODE: S_ALR_87005508
消費期間は、消費する日数を設定する。
所要量タイプ
計画方針グループには、「所要量タイプ(Requirements Type)」という重要な設定がある。
所要量タイプとは?
所要量タイプとは、計画独立所要量(PIR: Planned Independent Requirements)や受注データ(Sales Order)を、MRPでどのように処理するかを決定するパラメータである。
所要量タイプには、次の2種類がある。
- 独立所要量の所要量タイプ
- 得意先所要量の所要量タイプ
「独立所要量の所要量タイプ」と「得意先所要量の所要量タイプ」は何種類もあり、ひとつの計画方針グループに、ひとつづつ設定できる。そのため、組み合わせの数は非常に多い。さらに、パラメータの値がドイツ語の略称なので、パラメータ名称から、MRPの動作を予想したり理解したりするのは一層難しい。
この難解な所要量タイプを、生成AIの力を借りて紐解いてみたい。
「独立所要量の所要量タイプ」とは?
「独立所要量の所要量タイプ」は、MRP実行時にPIRをどのように消費させるかを決定するパラメータである。
大雑把に言えば、「計画通りに生産を進めたいのか」、それとも「柔軟に計画変更するのか」を、コントロールする。
- 計画通りに生産を進める
-
得意先需要(受注伝票)の有無は無視して、あくまで登録されている計画独立所要量に従って生産を行う。
- 柔軟に計画変更する
-
得意先需要の数量によって計画独立所要量を相殺(消費)し、過剰な生産を抑える。
「独立所要量の所要量タイプ」の表を生成AIに作成してもらう
「所要量タイプ」を理解するのは難しい。そもそもMRPが難解であるうえ、その需要データを細かく制御するパラメータなのだから、解り難いのは当然だ。さらに、パラメータの値は LSF、BSF、VSF など、英語ではなくドイツ語の略称が使われている。そのため、値の名称からMRPの動作を予測したり理解したりするのは、さらに難しくなる。
このような難解なパラメータこそ、生成AIにわかりやすく整理してもらおう。

「難しいこと」を「易しく解説する」のが生成AIの特技!
「独立所要量の所要量タイプ」のMRP実行時の動作/計画独立所要量(PIR)の消費の有無/PIRはどのようなデータによって消費されるのか、プロンプトを使って生成AIに整理してもらった表が以下だ。
- プロンプト:独立所要量の所要量タイプ」を整理した表を作成する
-
# 依頼 あなたはSAP S/4HANAのPPモジュールのコンサルタント、および生産管理の専門家です。 PPのパラメータ「独立所要量の所要量タイプ」の値が、MRP実行時に計画独立所要量(PIR)や受注データに、どのように作用するかを整理する表を作成してください。 表の列は{#列}とします。 独立所要量の所要量タイプの値は{#独立所要量の所要量タイプ}とします。 {#ルール}は必ず守ってください。 # 列 独立所要量の所要量タイプ(値=ドイツ語の略称) 独立所要量の所要量タイプのドイツ語名(略す前) 独立所要量の所要量タイプの英語名 独立所要量の所要量タイプの日本語名 MRP実行時の動作 PIR消費の有無 PIRを消費するデータの種類 # 独立所要量の所要量タイプ LSF BSF VSF VSFB VSE VSEM VSEB VSEV VSEP # ルール - 文章は体言止めを意識し、「である」「だ」調で。 - SAPの初心者が理解しやすいよう、わかいやすい生産管理の言葉で。 - ドイツ語の略称と、略す前のドイツ語の名称は、整合するようにする。 - ハルシネーションは出さないこと。
- 出力結果(独立所要量の所要量タイプを整理した表)
-
独立所要量の所要量タイプ(値) 独立所要量の所要量タイプのドイツ語名 独立所要量の所要量タイプの英語名 独立所要量の所要量タイプの日本語名 MRP実行時の動作 PIR消費の有無 PIRを消費するデータの種類 LSF Lagerfertigung Make-to-Stock Production 見込生産 在庫生産のための計画独立所要量を使用 なし 該当なし BSF Bedarfsorientierte Lagerfertigung Demand-Oriented Make-to-Stock Production 需要指向見込生産 需要に基づく在庫生産のための計画独立所要量を使用 なし 該当なし VSF Verkaufs- und Produktionssynchrone Fertigung Sales and Production Synchronized Production 販売と生産の同期化 販売および生産を同期させるための計画独立所要量を使用 あり 受注 VSFB Verkaufs- und Produktionssynchrone Fertigung mit Bedarfsabgleich Sales and Production Synchronized Production with Demand Matching 需要調整付き販売と生産の同期化 需要調整を伴う販売および生産の同期化のための計画独立所要量を使用 あり 受注 VSE Verkaufs- und Produktionssynchrone Einzelfertigung Sales and Production Synchronized Individual Production 販売と生産の同期化個別生産 販売および生産を同期させる個別生産のための計画独立所要量を使用 あり 受注 VSEM Verkaufs- und Produktionssynchrone Einzelfertigung mit Materialstammsicht Sales and Production Synchronized Individual Production with Material Master View 品目マスタビュー付き販売と生産の同期化個別生産 品目マスタビューを持つ販売および生産の同期化個別生産のための計画独立所要量を使用 あり 受注 VSEB Verkaufs- und Produktionssynchrone Einzelfertigung mit Bedarfsabgleich Sales and Production Synchronized Individual Production with Demand Matching 需要調整付き販売と生産の同期化個別生産 需要調整を伴う販売および生産の同期化個別生産のための計画独立所要量を使用 あり 受注 VSEV Verkaufs- und Produktionssynchrone Einzelfertigung mit Verbrauch Sales and Production Synchronized Individual Production with Consumption 消費付き販売と生産の同期化個別生産 消費を伴う販売および生産の同期化個別生産のための計画独立所要量を使用 あり 受注 VSEP Verkaufs- und Produktionssynchrone Einzelfertigung mit Projektbezug Sales and Production Synchronized Individual Production with Project Reference プロジェクト参照付き販売と生産の同期化個別生産 プロジェクト参照を持つ販売および生産の同期化個別生産のための計画独立所要量を使用 あり 受注
上表は生成AIが作成した表なので、MRP実行時にこの表の通りにRIPが消費されるかは、実機検証を行い確認する必要がある。しかし、この表はパラメータ設定を行う際の道標になるはずだ。



所要量タイプをひとつひとつ調べるのは至難の業だけど、生成AIは表に整理してくれる!
「得意先所要量の所要量タイプ」とは?
「得意先所要量の所要量タイプ」は、「顧客からの受注(得意先所要量)をMRP実行時にどのような性質(確定需要または見込需要)として扱うか」を決定するパラメータである。
具体的には、次の2種類の扱い方がある。
- 「確定需要」として扱う場合
-
「確定需要」として扱う場合
顧客の注文を必ず生産すべき数量として認識し、MRPで生産や部品調達を確実に計画する。
(例:顧客の注文が100個の場合、必ず100個分の生産・調達が計画される) - 「見込需要」として扱う場合
-
顧客の注文を「予測」の扱いとし、状況が変化した場合にもS/4HANAのMRPが柔軟に生産計画を調整することができる。
(例:顧客からの注文が増減しても、MRP実行時に柔軟に対応可能な生産・調達計画となる)
つまり、この設定で、注文に対して必ず生産を行うのか(受注生産向け)、あるいは市場の変化に応じて柔軟に対応するのか(見込生産向け)を決定できる。
「得意先所要量の所要量タイプ」の早見表を生成AIに作成してもらう
「独立所要量の所要量タイプ」で表を作成したのと同様に、プロンプトを使って生成AIに整理してもらった表が以下だ。
- プロンプト:得意先所要量の所要量タイプ」を整理した表を作成する
-
# 依頼 あなたはSAP S/4HANAのPPモジュールのコンサルタント、および生産管理の専門家です。 PPのパラメータ「得意先所要量の所要量タイプ」が、MRP実行時に計画独立所要量(PIR)や受注データに、どのように作用するかを整理する表を作成してください。 表の列は{#列}とします。 得意先所要量の所要量タイプの値は{#得意先所要量の所要量タイプ}とします。 {#ルール}は必ず守ってください。 # 列 得意先所要量の所要量タイプ(値=ドイツ語の略称) 得意先所要量の所要量タイプのドイツ語名(略す前) 得意先所要量の所要量タイプの英語名 得意先所要量の所要量タイプの日本語名 MRP実行時の動作 PIR消費の有無 PIRを消費するデータの種類 # 得意先所要量の所要量タイプ KSL KE KP KEK KEL 41 KSV KEV KPV S49 KEKT KELV KEKS S45 S60 KPVV S70 ELVV KPX KMSE KMFA KMNP SERA KMPN KMPA BB6 # ルール - 文章は体言止めを意識し、「である」「だ」調で。 - SAPの初心者が理解しやすいよう、わかいやすい生産管理の言葉で。 - ドイツ語の略称と、略す前のドイツ語の名称は、整合するようにする。 - ハルシネーションは出さないこと。
- 出力結果(独立所要量の所要量タイプを整理した表)
-
得意先所要量の所要量タイプ(値) 得意先所要量の所要量タイプのドイツ語名 得意先所要量の所要量タイプの英語名 得意先所要量の所要量タイプの日本語名 MRP実行時の動作 PIR消費の有無 PIRを消費するデータの種類 KSL Kundenauftrags-Sekundärbedarf Lager Customer Order Secondary Requirement Stock 得意先受注従属所要量在庫 得意先受注に基づく従属所要量を在庫として計画 なし 該当なし KE Kundenauftrag Einzelbedarf Customer Order Individual Requirement 得意先受注個別所要量 得意先受注ごとに個別に所要量を計画 なし 該当なし KP Kundenauftrag Primärbedarf Customer Order Primary Requirement 得意先受注主要所要量 得意先受注を主要所要量として計画 あり 得意先受注 KEK Kundenauftrag Einzelbedarf Konsignation Customer Order Individual Requirement Consignment 得意先受注個別所要量(寄託) 寄託在庫に対する得意先受注ごとに個別に所要量を計画 なし 該当なし KEL Kundenauftrag Einzelbedarf Lager Customer Order Individual Requirement Stock 得意先受注個別所要量在庫 在庫に対する得意先受注ごとに個別に所要量を計画 なし 該当なし 41 Kundenauftrag mit Lagerfertigung Customer Order with Stock Production 在庫生産を伴う得意先受注 在庫生産を伴う得意先受注の所要量を計画 あり 得意先受注 KSV Kundenauftrag Sekundärbedarf Verbrauch Customer Order Secondary Requirement Consumption 得意先受注従属所要量消費 得意先受注に基づく従属所要量を消費として計画 あり 得意先受注 KEV Kundenauftrag Einzelbedarf Verbrauch Customer Order Individual Requirement Consumption 得意先受注個別所要量消費 得意先受注ごとに個別に所要量を消費として計画 あり 得意先受注 KPV Kundenauftrag Primärbedarf Verbrauch Customer Order Primary Requirement Consumption 得意先受注主要所要量消費 得意先受注を主要所要量として消費計画 あり 得意先受注 S49 Strategie 49 Strategy 49 戦略49 特定の戦略に基づく所要量計画 戦略依存 戦略依存 KEKT Kundenauftrag Einzelbedarf Konsignation Verbrauch Customer Order Individual Requirement Consignment Consumption 得意先受注個別所要量(寄託)消費 寄託在庫に対する得意先受注ごとに個別に所要量を消費計画 あり 得意先受注 KELV Kundenauftrag Einzelbedarf Lager Verbrauch Customer Order Individual Requirement Stock Consumption 得意先受注個別所要量在庫消費 在庫に対する得意先受注ごとに個別に所要量を消費計画 あり 得意先受注 KEKS Kundenauftrag Einzelbedarf Konsignation Sekundärbedarf Customer Order Individual Requirement Consignment Secondary Requirement 得意先受注個別所要量(寄託)従属所要量 寄託在庫に対する得意先受注ごとに個別に従属所要量を計画 なし 該当なし S45 Strategie 45 Strategy 45 戦略45 特定の戦略に基づく所要量計画 戦略依存 戦略依存 S60 Strategie 60 Strategy 60 戦略60 特定の戦略に基づく所要量計画 戦略依存 戦略依存 KPVV Kundenauftrag Primärbedarf Verbrauch Variante Customer Order Primary Requirement Consumption Variant 得意先受注主要所要量消費(バリアント) バリアント品目に対する得意先受注を主要所要量として消費計画 あり 得意先受注 S70 Strategie 70 Strategy 70 戦略70 特定の戦略に基づく所要量計画 戦略依存 戦略依存 ELVV Einzelbedarf Lager Verbrauch Variante Individual Requirement Stock Consumption Variant 個別所要量在庫消費(バリアント) バリアント品目に対する在庫の個別所要量を消費計画 あり 在庫 KPX Kundenauftrag Primärbedarf ohne Lager Customer Order Primary Requirement without Stock 在庫なしの得意先受注主要所要量 在庫を持たずに得意先受注を主要所要量として計画 あり 得意先受注 KMSE Kundenauftrag mit Materialstammsicht Einzelbedarf Customer Order with Material Master View Individual Requirement 品目マスタビュー個別所要量を持つ得意先受注 品目マスタの個別所要量ビューを持つ得意先受注の計画 なし 該当なし KMFA Kundenauftrag mit Materialstammsicht Fertigungsauftrag Customer Order with Material Master View Production Order 品目マスタビュー生産オーダーを持つ得意先受注 品目マスタの生産オーダービューを持つ得意先受注の計画 なし 該当なし KMNP Kundenauftrag mit Materialstammsicht Netzplan Customer
- この表の通りにMRPが動作するかは、実機検証を行い確認する必要がある。
生成AIによるPIR消費のシミュレーション
生成AIは、その知識を使ってS/4HANAにおけるMRPの計算結果を予測することができる。つまり、生成AIはS/4HANAのMRP計算のシミュレータになり得る。
特に生成AIには、計画方針グループや所要量タイプの知識があるので、得意先受注(SO: Sales Order)による計画独立所要量(PIR)の消費と、計画手配(PO: Planned Order)の作成の様子を予測することが可能だ。
以下は、生成AIによるMRP実行時のPIRの消費と、計画手配(PO: Planned Order)が作成される様子のシミュレーションである。



生成AIによる、計画独立所要量の消費のシミュレーション。
SAP実機を使わずに、どこまでできるか・・・?
プロンプト
計画方針グループごとに、SOがPIRを消費する様子をシミュレーションするためのプロンプトを、以下のように作成してみた。
# 依頼 あなたはSAP S/4HANAのPP(生産管理)モジュールのコンサルタントです。 計画独立所要量(PIR)と得意先受注(SO:Sales Order)が{#MRP実行前}であったとします。 MRP実行後のPIR、SO、PO(Planned Order)の様子の表を、{#計画方針グループ}ごとに作成してください。 特に、SOがPIRを消費する様子を正確に表してください。 MRPの実行条件は{#計画条件}とします。 計画方針グループにおける「独立所要量の所要量タイプ」と「得意先所要量の所要量タイプ」の設定は、{#計画方針グループと所要量タイプ}です。 MRP実行後の表の列は{#MRP実行後の表の列}とします。 {#ルール}は必ず守ってください。 # 計画方針グループ 10, 20, 40 # 計画条件 消費モード=逆順消費 逆消費期間=10日 順消費期間=5日 MRP開始時点の在庫数量=0 #計画方針グループと所要量タイプ 計画方針グループ=10のとき、LSF、KSL 計画方針グループ=20のとき、なし、KE 計画方針グループ=40のとき、VSF、KSV # MRP実行後の表の列 日付 MRP要素 MRP要素の数量 消費・計画手配の様子 # ルール - 消費モードは、最初に書かれている消費を優先する。たとえば、「逆順消費」は逆消費を優先し、消費期間内の古い日付のものから処理する。 - 列「消費・計画手配の様子」は、PIRとPOについて表示。MRP実行によって、その数字となった理由を説明する。 - PIRやSOなどの需要データの数量にはマイナス記号を、POなど供給データの数量にはプラス記号を付ける。 - PIRは消費されて残った数量を表示する。全量消費された場合は0を表示する。 - 在庫が不足しないようにPOを出力する。 - 各MRP要素は表を出力する前に、「日付」の昇順で並べ替える。 - 出力表はマークダウン形式とする。 # MRP実行前 | 日付 | MRP要素 | 数量 | |--------|--------|------| | 4/10 | PIR | -100 | | 4/15 | SO | -120 | | 4/20 | PIR | -150 | | 4/22 | SO | -50 | | 4/25 | SO | -70 |
MRP実行前の設定条件
PIRとSOが、次の状態で登録されていたとする。
日付 | MRP要素 | 数量 |
---|---|---|
4/10 | PIR | -100 |
4/15 | SO | -120 |
4/20 | PIR | -150 |
4/22 | SO | -50 |
4/25 | SO | -70 |
- 消費モード = 逆順消費
- 順消費期間 = 5日
- 逆消費期間 = 10日
シミュレーションの結果
計画方針=10(完全見込生産:LSF/KSL)
- PIRと受注は独立。PIRは消費されない。
- PIR=見込み在庫計画、受注=別途計画される。
- 4/20のPIRについて、最終的に残りは -10(つまり、需要として10不足)となる。
- この不足分を補うため、POとして+10を出力し、最終在庫を0に調整する。
日付 | MRP要素 | MRP要素の数量 | 消費・計画手配の様子 |
---|---|---|---|
4/10 | PIR | 0 | 4/10のPIR (-100)は、SO 4/15により全量消費された |
4/15 | SO | -120 | 確定受注(SO 4/15:消費内訳—4/10から100、4/20から20) |
4/20 | PIR | -10 | 4/20のPIR (-150)は、SO 4/15(20)、4/22(50)、4/25(70)で消費、残り-10 |
4/20 | PO | +10 | 4/20のPIR不足分10を補うため、POを作成 |
4/22 | SO | -50 | 確定受注 |
4/25 | SO | -70 | 確定受注 |
計画方針=20(完全受注生産:PIRなし/KE)
- グループ20ではPIRは設定されないため、MRP実行前のPIRはそのまま未消費として投入される。
- SOはKEとして確定受注となる。
- そのため、各SOの需要分を補うPOが作成され、最終在庫が0に調整される。
日付 | MRP要素 | MRP要素の数量 | 消費・計画手配の様子 |
---|---|---|---|
4/10 | PIR | -100 | 4/10のPIR (-100)は未消費(方針20ではPIRは無視) |
4/15 | SO | -120 | KEとして確定受注 |
4/15 | PO | +120 | SO 4/15の需要 (-120)を補うため、POを作成 |
4/20 | PIR | -150 | 4/20のPIR (-150)は未消費(方針20ではPIRは無視) |
4/22 | SO | -50 | KEとして確定受注 |
4/22 | PO | +50 | SO 4/22の需要 (-50)を補うため、POを作成 |
4/25 | SO | -70 | KEとして確定受注 |
4/25 | PO | +70 | SO 4/25の需要 (-70)を補うため、POを作成 |
計画方針=40(販売・生産同期型生産:VSF/KSV)
- グループ40は、グループ10と同様のPIRが設定される。
- 消費ルールはグループ10と同様で、結果も同じになる。
日付 | MRP要素 | MRP要素の数量 | 消費・計画手配の様子 |
---|---|---|---|
4/10 | PIR | 0 | 4/10のPIR (-100)は、SO 4/15により全量消費された |
4/15 | SO | -120 | 確定受注(SO 4/15:消費内訳—4/10から100、4/20から20) |
4/20 | PIR | -10 | 4/20のPIR (-150)は、SO 4/15(20)、4/22(50)、4/25(70)で消費、残り-10 |
4/20 | PO | +10 | 4/20のPIR不足分10を補うため、POを作成 |
4/22 | SO | -50 | 確定受注 |
4/25 | SO | -70 | 確定受注 |
上記のシミュレーションは ChatGPT o3-mini-high によるものである。
本来なら、執筆当時の最新版である ChatGPT 4.5(Preview) を使用したかったのだが、検証の途中でトークンが枯渇したため o3-mini-high に切り替えた。しかし、o3-mini-high の正確性は 4.5 よりも劣るため、読者の皆様におかれては、本稿のシミュレーションの結果を鵜呑みにせず、実機にて検証されることをお願いしたい。
4.5は上述より粗いプロンプトでも正確な結果を返す挙動を見せており、シミュレーションに十分耐えられそうな感触を得られた。生成AIは進化する度、SAPシステムに対する知識も深めているようである。
計画方針グループと管理会計(CO)モジュールの関係
計画方針グループの設定は、コスト管理や利益計画にも影響を与えるため、SAP S/4HANAの管理会計(CO)モジュールとも関連が深い。特に以下の要素と結びつく。
製品原価管理(CO-PC)
CO-PC(Controlling – Product Cost Controlling) は、COモジュール内で 製品の原価計算を管理する機能 である。製造業において、製品のコストを計算し、原価管理を行うための仕組みとして使用される。
計画方針グループ/生産方式と、CO-PCとの関連は次の表のようになる。
計画方針グループ | 生産方式 | CO-PCとの関連 | 原価計算方法 | 原価収集オブジェクト | 在庫評価方法 | 収益性分析(CO-PA)への影響 |
---|---|---|---|---|---|---|
10, 40, 50 | MTS(見込生産) | 在庫ベースの原価管理 | 標準原価(Standard Costing) | 品目(Material) | 標準原価 | 製品別・販売チャネル別の収益分析が主 |
20, 52 | MTO(受注生産) | 受注単位の原価管理 | 受注別実際原価(Actual Costing) | 受注(Sales Order) | 受注別実際原価 | 受注別の収益性分析が重要 |
– | BTO(受注製造) | 受注単位の原価管理 | 受注別実際原価(Actual Costing) | 受注(Sales Order) | 受注別実際原価 | 受注単位での利益管理 |
60, 70 | ATO(受注組立生産) | 組立完了時の原価管理 | 標準原価 or 受注別実際原価 | 品目 or 受注 | 標準原価 + 追加コスト | 受注ごとの利益変動が発生する可能性 |
– | CTO(構成選択型生産) | オプション選択による原価計算 | 標準原価 + 追加コスト | 品目 or 受注 | 標準原価 + 追加コスト | オプション構成ごとの利益評価が重要 |
– | ETO(個別設計生産) | プロジェクト単位の原価管理 | プロジェクト別実際原価(Project Costing) | プロジェクト(WBS) | 実際原価 | プロジェクト単位の利益管理が必要 |
– | DTO(設計受注生産) | 設計完了時ごとの原価管理 | プロジェクト別実際原価(Project Costing) | プロジェクト(WBS) | 実際原価 | 設計フェーズごとの収益分析が可能 |
収益性分析(CO-PA)
CO-PA(Controlling – Profitability Analysis)は、COモジュール内で、製品や得意先ごとの収益性を分析するための機能である。
計画方針グループとCO-PAは、直接的な関係はないが、以下のように生産方式が収益性分析に影響を与える。
生産方式 | 利益確定のタイミング | 原価計算 | 説明 |
---|---|---|---|
MTS | 出荷時(PGI) | 標準原価 (Standard Costing) | 在庫販売のため、販売時に売上・原価を計上 |
MTO | 出荷時(PGI) | 受注別実際原価 (Actual Costing) | 受注ごとに生産し、納品時に売上・原価を計上 |
BTO | 出荷時(PGI) | 受注別実際原価 (Actual Costing) | 受注ごとに完全に製造し、納品時に売上・原価を計上 |
ATO | 組立完了時 or 出荷時(PGI) | 標準原価 or 受注別実際原価 | 組立完了後に在庫化するか、受注直結かで異なる |
CTO | 組立完了時 or 出荷時(PGI) | 標準原価 + 追加コスト(オプション別) | ATOと同様、在庫化するかどうかで異なる |
ETO | プロジェクト完了時 | プロジェクト別実際原価 (Project Costing) | 設計・開発を含む受注専用生産。プロジェクト完了時に利益確定 |
DTO | 設計完了時 or プロジェクト完了時 | プロジェクト別実際原価 (Project Costing) | 受注ごとに新たな設計を行い、設計完了後の段階的な利益計上が可能 |
まとめ:最適な計画方針グループを生成AIを活用して選ぶ
計画方針グループは、各種生産方式に対応し、MRPの動作に直接影響を与える重要なパラメータであることを解説した。特に、確定受注によって生産計画(計画独立所要量)の消費をコントロールする「所要量タイプ」は、組み合わせが多岐に渡るため、その動作を予測するのは難しい。
しかし、生成AIを活用すれば、S/4HANAにおけるMRP計算や計画独立所要量の消費の様子をシミュレーションできることがわかった。シミュレーションの正しさを証明するには実機での検証が不可欠だが、何通りもある計画方針や所要量タイプの動作を実機検証するには、パラメータ設定や関連マスタデータなど、環境を準備するたけでも相当な工数を要する。その点、ある程度の条件と精度でシミュレーションが行える生成AIの活用は有用である。
適切な計画方針グループの選択が、生産計画の最適化につながる。今回の記事と生成AIを活用し、最適な生産方式と計画方針グループを選んでほしい。
この記事で紹介した生成AI向けプロンプトの、書き方のコツを知りたい方は、以下の記事を参考にしていただきたい。


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