SAP Joule徹底解説②|他AIとの違い・利用環境・料金は?

SAP Joule徹底解説2-他AIとの違い・利用環境・料金

前回に引き続き、SAP Jouleについて徹底解説していく。

今回は、ChatGPTやGoogle Geminiなど他社の生成AIとJouleは何が違うのか、Jouleを利用するための環境、ライセンス・料金体系、さらにJouleの将来展望についても触れていく。

本記事は、前回記事とあわせて読むことで、SAP社のAI戦略とその中核を担うJouleの特徴を網羅的に理解できるようになっている。Jouleについて知りたい読者や、基幹系システムと生成AIの連携を検討している読者にとって、たいへん有用な情報となっている。ぜひ、前回記事と本記事をチェックし、Jouleおよび業務を支援する生成AIへの理解を深めてほしい。

目次

ChatGPT や Google Gemini との違い

一見するとJouleは、ChatGPT や Google Gemini に似た対話型AIに見える。しかし、エンタープライズ業務特化という点で大きく異なる。主な違いは次の通りだ。

ドメイン特化 vs 汎用知識

ChatGPTやGoogle Geminiがインターネット上の大規模テキストを学習し汎用知識を持つのに対し、JouleはSAPの業務データやプロセス知識に最適化されたモデルである(KPMG and SAP Joule for Consultants | SAP News Center)。そのため、一般常識や日常会話についてはChatGPTほど対応しないが、ERPの勘定科目や在庫管理など企業内の専門用語・データを前提とした質問に強い

たとえば「税コード1257Lに基づく今月の控除額は?」といった高度に文脈化された質問にもJouleは答えられるが、ChatGPTに同じ質問をしても適切な答えは得られないだろう。

リアルタイムな自社データへのアクセス

Jouleは企業ごとに接続されたSAPシステム上の最新データにアクセスして回答を生成する。これによりユーザ企業の現時点の数値や状況を踏まえた動的で精度の高い回答が可能となる (SAP Business AI: Release Highlights Q1 2025 | SAP News Center)。

一方、ChatGPTやGemini単体ではユーザ企業の内部データへアクセスする機能はなく、標準では汎用知識に基づく一般論しか返せない。ChatGPTにAPI連携やプラグインを組み合わせれば業務データを参照させることもできるが、そのための開発やセキュリティ対策は利用企業側の負担となる。Jouleは初めからSAPデータと連携済みという「組み込み型AI」である点が強みだ。

セキュリティとデータガバナンス

JouleはSAPのクラウド基盤内で動作し、データはSAPの厳格なセキュリティ管理下で扱われる。ユーザ企業の業務データやプロンプト内容が外部に漏洩したり、学習目的で再利用されたりすることは契約上も技術上も防がれていると考えられる(SAP Trust CenterのAIポリシー準拠)。

対して、ChatGPTなどパブリックな生成AIは、企業秘密データを入力するとその扱いに注意が必要であり、企業によっては社内利用を禁止する動きもある。機密データを安心してAIに扱わせられるという点で、オンプレミス志向の強い企業にもJouleは受け入れやすい。

業務への直接アクション

Jouleは回答を返すだけでなく、SAPシステム上で直接的に業務トランザクションを実行できる(例:伝票の自動起票やワークフローのトリガー|SAP Business AI: Release Highlights Q1 2025 | SAP News Center)。これはJouleがSAPアプリケーションと統合されているからこそ可能な機能である。

ChatGPTやGeminiは通常、テキスト応答しか返さないため、実際の業務システムに反映させるには人手での操作や、RPA、API利用によるカスタム開発などの追加作業が必要となる。Jouleは対話からそのまま業務処理の自動化までを一気通貫で行える点で、単なるQ&Aボットとの差別化を図っている。

回答の一貫性・根拠提示

SAPはJouleに厳格なガードレール(出力フィルタや根拠データの提示)を設け、「正確で責任あるAI」を目指している(SAP Business AI: Release Highlights Q1 2025 | SAP News Center)。たとえばJouleの回答には元データの参照(レポート名やドキュメント)が添えられることがある。また、不確実な問いには無理に回答せず「該当データが見つからない」といった控えめな応答をするよう設計されていると伝えられる。

一方、ChatGPTは自信ありげに誤答するケース(いわゆるハルシネーション)があり、結果を検証する手間がどうしても発生する。Jouleはビジネス利用に耐える信頼性確保を重視しており、この点はエンタープライズAIとして重要な差異である。

このように、ChatGPTやGeminiが汎用性を追求するのに対し、Jouleは業務に根差した実務派AIと言える。社内の課題解決にはJoule、一般的な情報収集にはChatGPTという住み分けも現実的である。

また今後、Google GeminiがSAP BTP(Business Technology Platform)でも利用可能になることで、Jouleの裏側で他社AIを活用するシナリオも広がる見通しだ(SAP and Google Cloud Are Advancing Enterprise AI | SAP News Center)。

JouleとChatGPT/Geminiの比較を表にまとめておく。

観点Joule(SAP)ChatGPT / Google Gemini
AIのタイプエンタープライズ業務特化型AI汎用型AI(あらゆるトピックに対応)
得意分野SAP業務(ERP、税コード、勘定明細等)一般知識、自然言語処理全般
業務データ連携SAP環境とリアルタイム接続社内データには標準状態ではアクセス不可
セキュリティと運用SAPクラウド内で運用、セキュリティ基準に準拠クラウド外部利用が主。社内利用に制限もありうる
業務プロセスとの連携伝票起票やワークフロー実行まで対応通常は回答のみ。業務連携には追加開発が必要
回答の信頼性出典付き回答。曖昧な質問には「該当なし」で返答出典なし。ハルシネーションのリスクあり
対象ユーザSAPユーザ企業の業務担当者、経営層一般ユーザから開発者、研究者まで

Jouleの利用環境

クラウド環境が前提

Jouleは基本的にSAPのクラウド製品上で動作するよう設計されている。SAP S/4HANA Cloud、SuccessFactors、Concur、Ariba等のSAPクラウドアプリケーションを利用中の顧客が、その環境内でJoule機能を有効化できるようになっている。

オンプレミス版SAP(SAP S/4HANA On-Premiseや従来のECC 6.0)では、標準ではJouleは提供されない。ただし、RISE with SAP等でクラウドへの移行を計画中の顧客には、一部Jouleエージェント機能を試験提供する例も出始めている。たとえば先述の仕訳作成AIなどはオンプレミス系のプライベートクラウドにも提供された(SAP Business AI: Release Highlights Q1 2025 | SAP News Center)。

ユーザ環境とUI

エンドユーザ側の特別な要件はなく、SAP Fiori画面やモバイルアプリから利用可能である。WebブラウザやSAP Fiori対応のクライアントから従来通りSAPシステムにアクセスすれば、そのUI上にJouleの対話ウィンドウが現れる仕組みである。PCだけでなくモバイルアプリ(SAP SuccessFactorsアプリなど)からもJouleに話しかけられる(SAP SuccessFactors 1H 2025 Release: New AI-Enabled Innovation | SAP News Center)。

ただし、ユーザインターフェースは現状テキストチャットが中心であり、音声入力や画像入力などマルチモーダルなインターフェースは今後の拡張領域となっている(SAPは動画や音声も扱うRAG:Retrieval-Augmented Generationへの取り組みを表明 SAP and Google Cloud Are Advancing Enterprise AI | SAP News Center)。

ライセンスと料金体系

基本機能は無償提供?

SAP Jouleの利用料金に関して正式な価格リストは2025年4月時点では公にされていない。

しかしSAPのこれまでの発表や提供形態から推測すると、基本的なJoule機能は各SAPクラウド製品のサブスクリプションに含まれる形になる可能性が高い。つまり、S/4HANA CloudやSuccessFactors等を利用している顧客は追加コストなしでJouleの標準機能にアクセスでき、一定の範囲内であれば料金内で利用可能とするモデルである。実際、SAPはJouleによる開発支援機能を「期間限定で無償提供」としており (Joule for Developers: AI-Powered Capabilities | SAP News Center)、まずは広くユーザに使ってもらう戦略を取っている。

追加課金の可能性

将来的に高度な機能や大量利用に対しては従量課金やプレミアムライセンスが設定されることも考えられる。他社の例では、Microsoftの Copilot が別途追加ライセンス(Microsoft 365 E3/E5に対するアドオン料金)として月額課金されているケースがある。

SAPも同様に、たとえば「Joule Advanced」等の形で高度なエージェント構築機能や大規模利用時には追加費用を課す可能性がある。現在KPMGなどパートナー向けに提供されている Joule for Consultants が将来的に有償オプション化されるかどうかも注目点だ。

具体的な料金の予想

現在公表されている具体例は限られるが、SAP内部の開発者向けには「ABAP AI機能のフリートライアル提供」が案内されている (Joule for Developers: AI-Powered Capabilities | SAP News Center)。これは開発ライセンスに紐づいて一定期間無料でJouleのコード生成等を試せるオファーで、将来的には有償サービスへ移行予定と示唆されている。

同様にエンドユーザ向けのJouleも、今はプロモーションとして無料でも、正式版では「利用ユーザ数×月額料金」または「一定量のトークン消費ごとに課金」といった形が採用されるかもしれない。

現実の数字を挙げると、競合の Microsoft 365 Copilot は企業向けにユーザ一人当たり月額30ドル(執筆時点の日本価格は4,497円強)で提供されている例がある(Microsoft 365 用 AI 生産性向上ツール | Microsoft 365 )。

仮にSAP Jouleも同程度の価格帯であれば、1000人規模の企業で年間数百万円のコスト増となるため、その分の費用対効果が求められる計算だ。ただしSAPは自社クラウドの付加価値向上策としてJouleを位置付けているため、基本的なQ&Aや簡易タスク利用は無償提供し、高度な分析やエージェント構築のみ課金、といったメリハリのある料金体系となる可能性もある。

制限事項と注意点

Jouleの利用にはいくつかの制限事項や注意点もある。

地域・言語の制限

サービス利用可能なリージョンは、SAPのクラウドデータセンター戦略に従う。欧州・米国・日本など主要リージョンでは順次展開されているが、一部国では規制等により提供開始が遅れる可能性もある。

また、言語面の制約として、対応11言語以外ではまだ利用できない(たとえばタイ語やアラビア語は未サポート)点や、日本語などでは英語に比べて微妙なニュアンスが伝わりにくいケースがある。SAPはモデルの多言語対応を継続強化中であり、徐々に改善される見込みだ。

アクセス制御とデータ管理

また、Jouleとのコミュニケーション履歴(ユーザが入力したプロンプトやJouleの回答)がどの程度ログに残り、監査できるかも把握しておく必要がある。特にGDPR等個人情報保護の観点から、会話ログ管理と削除ポリシーを明確にしておくことが望ましい。

システム負荷と応答時間

Jouleは高度なAI処理を伴うため、処理時間やシステム負荷に留意すべきだ。SAPは回答をストリーミング表示するなど工夫しているが (SAP Business AI: Release Highlights Q1 2025 | SAP News Center)、複雑なクエリの場合数秒~十数秒の待ち時間が生じる場合がある。また、同時に多数のユーザがJouleに問い合わせると、クラウド上のAIリソースが逼迫し、レスポンスが遅延する可能性も否定できない。

サービスレベル合意(SLA)の範囲内で済むよう、必要なら追加のAIリソース割当(これは別料金となるかもしれない)を検討することも考えられる。重要な業務で使う際は、ピーク時のパフォーマンステストを事前に実施し、許容範囲か確認しておくと安心だ。

SAP Jouleの開発環境

SAP Jouleはエンドユーザ向けだけでなく、開発者や拡張担当者にとっても新たなツールおよびプラットフォームを提供する。Joule関連の開発に必要なライセンス、利用ツール・言語、そしてAPIの公開状況について。

開発に必要なライセンス

SAP S/4HANA向けに拡張を開発するには SAP Business Application Studio やABAP開発者ライセンスが必要となるが、これらツール内でJouleのコーディング支援機能を使う分は、追加費用無しで利用できる (Joule for Developers: AI-Powered Capabilities | SAP News Center 2025年現在のキャンペーン)。

SAPは開発者向けに「Joule for Developers」プログラムを設けており、SAP Community上で情報提供やトライアル環境を提供している。ABAP開発環境でのAI支援機能や、SAP Build系ツールでのAI活用方法については、SAP Communityのチュートリアルやブログで具体的に解説されている。

これらの開発環境はSAPアカウント(SAP Universal ID)があればアクセス可能だが、実際のシステム上で開発を試すには、開発者ライセンスかBTPトライアル環境が必要となる。

開発ツール

JouleはSAP Business Application StudioやABAP開発環境に統合されており、開発者は自然言語でAI支援を受けながら作業できる。コーディング支援・プロセス自動生成・文書作成などが可能で、ABAP、JavaScript、CAPモデルの知識があると拡張性が高まる。

SAP Communityではサンプルコードやテンプレートも提供されており、Jouleの応用例やカスタムエージェントの構築方法を学ぶことができる。

JouleはSAPの主要な開発者向けツールに組み込まれている。具体的には、クラウド版ABAP開発環境(ABAP Development Tools for Eclipse)や SAP Business Application Studio(クラウドIDE)にJouleアシスタントが統合されており、開発者はIDE内で直接Jouleに質問やコマンドを送れる(Joule for Developers: AI-Powered Capabilities | SAP News Center)。これにより開発者はIDEとChatGPT等を行き来することなく、一つの画面でコーディングとAI支援を完結できる。

SAP Build Code の Joule 機能

SAP Build Process Automation のプロジェクト画面にもJouleが統合されており、下図のようにプロセスフローの自動生成や説明文の作成をその場で行える(Joule for Developers: AI-Powered Capabilities | SAP News Center)。

AP Build Process Automation の Joule 機能

Joule Studio

Joule Studioはノーコード/ローコードでカスタムAIスキルやエージェントを作成できる開発ツール。SAP Buildの一部として提供されており、以下のような機能を備える:

  • ドラッグ&ドロップで業務に応じたカスタムスキルを構築可能
  • 異なる業務プロセスに対応するAIエージェントの連携・自動化が可能
  • 自然言語での開発支援(コード生成、説明文作成など)
  • SAP以外の外部サービス(例:Microsoft 365)との連携にも対応

これにより、業務プロセス全体のAI自動化が視野に入る。

JouleのAPI公開状況

Jouleを外部アプリケーションから利用する場合、OpenAI API のような、REST API が提供されているかがポイントになる。JouleのAPIの公開状況や如何に?

REST APIとしての提供は未定

執筆現時点で、Jouleの REST API は提供されていない。そのため、外部アプリケーションから直接Jouleにアクセスすることは基本的にできない。JouleはあくまでSAP UI内に組み込まれたクローズドな機能として提供されている。

代替手段:SAP BTPのAI Hub活用

ただし、SAP BTPのGenerative AI HubではOpenAIやGoogle LLMへのAPIアクセスが可能。開発者はこれを活用してJoule相当のAI機能をカスタムアプリに実装することができる。

Jouleエージェントビルダーなどを通じてSDK的に拡張可能になる可能性があり、企業独自のAIアシスタント開発も現実味を帯びてきている。


このように、Jouleはエンドユーザ支援にとどまらず、開発者向けにも強力なAI支援基盤としての広がりを見せている。技術者にとっても今後注目すべきプラットフォームである。

Joule導入上の注意すべき点

出力結果の検証は人間の責任

Jouleは高い精度を誇るが、回答内容の最終確認は人間の役割である。初期は誤答や不正確な提案もあり得るため、財務や人事など重要データに関しては、必ず担当者が内容をチェック・補足する体制が必要となる。

また、AIとの対話操作に慣れない現場もあるため、簡単なタスクから段階的に導入し、利便性を実感してもらうとよい。質問のコツや使い方をまとめたガイドラインや社内トレーニングも有効だろう。

データ品質が成果を左右する

Jouleの性能は社内データの整備状況に大きく依存する。不整合やサイロ化が多いと、適切な回答が得られない。そのため、マスタデータのクレンジングや統合基盤(Business Data Cloud)への移行が並行して求められる。Joule導入はデータ品質向上プロジェクトと表裏一体とも言える。

コストとROIの見極め

Jouleの利用料は一部無料だが、将来的には追加ライセンスや従量課金が発生する可能性がある。他社事例(Microsoft 365 Copilotなど)では月額数千円規模の料金もあり、全社展開には費用対効果の検証が欠かせない。

導入効果が高そうな部署や業務から段階的に展開し、成功事例を積み重ねていくことが、安定した社内定着につながるだろう。

SAP Jouleのロードマップと将来像

今後の展開と技術的進化

SAPはJouleを「AIエージェントの時代」を牽引する存在として進化させる方針であり、以下の要素をロードマップに掲げている:

  • マルチエージェント協調:複数のAIが連携して業務遂行(例:財務×営業×購買の自律連携)。
  • カスタムエージェント開発:ノーコードで企業独自のAIエージェント構築が可能に。
  • 機能の拡充:コード最適化や会議議事録自動生成、コンプライアンス強化機能などを追加予定。
  • クラウド移行支援:レガシーコード解析・改善提案でS/4HANA移行をサポート。
  • マルチモーダル対応:動画・音声からの情報抽出にも対応予定。
  • 他社AIとの連携:A2AプロトコルでSalesforceやMicrosoftのAIと連携可能に。

Jouleは将来的に単なるAIチャットを超え、業務知能の中枢となることを目指している。

普及の展望と課題

JouleはSAPクラウド導入企業を中心に順調に普及しつつあり、今後もクラウド移行を後押しする武器として活用される見通しである。ただし、いくつかの課題も存在する。

  • コスト:プレミアム機能の導入には追加費用が発生する可能性があり、ROIが重要に。
  • AIへの不安:判断の誤りや責任所在への懸念があり、限定導入・検証が必要。
  • ユーザ教育:SAP GUIやFioriに慣れた現場に対して、AI操作への習熟支援が不可欠。

総じて、中長期的には普及が進むと予想されるが、着実なチェンジマネジメントと透明性あるAI設計が鍵となる。

競合他社の動き

主要な競合としては以下の企業が挙げられる:

  • Microsoft:CopilotによりOfficeやDynamics ERPと連携。Jouleと違い汎用LLM中心。
  • Salesforce:Einstein GPTでCRMに特化したAI機能を展開。ERP領域は未対応。
  • Oracle:自社クラウドでAIを展開。ERP+AIという構図ではSAPと真っ向勝負。
  • Google/IBM:Duet AIやWatson後継などでそれぞれの領域に特化したAIを展開。

SAPは、業務文脈に深く根差したAIとERP統合を武器に差別化を進めている。今後はA2Aプロトコルによる相互運用や、Microsoft等との連携も視野に入れた戦略が期待される。

Jouleに込められた意味

最後に、異なる視点からJouleを捉えてみたい。

SAP Jouleには、単なる技術以上の象徴的な意味が込められている。まず名前の「Joule(ジュール)」は、エネルギーや仕事量の単位であり、SAPはこれを「データという潜在エネルギーをAIで引き出し、ビジネス推進力に変える」意図で命名したと考えられる。

また、JouleはSAPのイノベーション文化の象徴とも言える存在だ。これまで新技術の導入には慎重とされていたSAPが、Jouleの迅速な開発とAIパートナーとの積極連携を通じて、スタートアップ的な機動力と変革志向を見せ始めている。これはCEOクリスチャン・クライン氏の若いリーダーシップのもと、SAPがクラウド企業へと脱皮しつつある現れでもある。

さらに、Jouleは企業組織そのものにも影響を与える可能性がある。部門横断で業務を最適化できるAIの登場により、組織はフラット化し、調整業務や単純分析作業はAIに委ね、人間はより創造的な業務へとシフトするだろう。これは「人とAIの共創時代」への入り口でもある。

開発現場においてもJouleの影響は大きい。これまではプログラムを書くことが中心だったが、今後は「AIにスキルを教える」ことが開発の主流となる可能性がある。開発者の役割はAIの教育者 = AIティーチャーへと変わっていくかもしれない。

このようにJouleは、SAPにとっての技術革新のみならず、企業の働き方、組織文化、そして開発スタイルを変える起爆剤となり得る存在である。

まとめ

SAPが提供する生成AIコパイロット「Joule」は、業務知識とデータに根差した統合AIアシスタントとして、企業のデジタルトランスフォーメーションを支援する革新の象徴である。1300以上のスキル、統一UI、そしてビジネス文脈に即した応答力により、JouleはSAP全体を横断するAI体験を提供している。

既にS/4HANA CloudやSuccessFactors、Concurなどの主要クラウド製品に実装が進んでおり、経費精算や人事対応、開発支援など幅広い業務領域で成果を上げつつある。ChatGPT等の汎用AIとは異なり、リアルタイムに自社データへリアルタイムにアクセスし根拠のなる回答を返す点が大きな強みだ。

もちろん、導入にはデータガバナンスやコスト、人材育成といった課題への配慮が不可欠である。だが、「Trusted AI」の実践を通じて、Jouleは企業の競争力を高める鍵となる可能性を秘めている。

今後もSAPはJouleを中核に据えたAI戦略を加速させ、業務全体を最適化するAIエージェント時代をリードしていく構えだ。ライバル各社も類似のAIを投入する中、JouleはSAPエコシステムにもたらされた強力な武器と言える。

「あなたのデジタルアシスタントJouleです。お手伝いしましょうか?」

その言葉が、多くのSAPユーザにとっての日常になる日は遠くないのかもしれない。


参考文献・出典
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.

目次